「福島から学ぶこと」エネルギーと環境の「専門家」の方々へ
次に福島と同じような災害が起きた時、福島で起きた「災害関連死1000人」を防ぐことができるのでしょうか。門外漢である私には、原子力関係機関内部の詳しい事情を知る術はありません。しかし、エネルギー・環境の「専門家」の方々の中には、健康問題は無関係、と思っていらっしゃる方も多いように感じています。
「原子力にはかかわっていないから」
「健康は専門ではないから」
「(個人情報について)法律の専門家でないから」
それはそのとおりかもしれません。しかし、それは医療者も同じことなのです。
こと被災地の健康についていえば、一番の「専門家」は被災された住民や自治体です。つまり、被災地の調査・研究においては、今現在の専門性ではなく、被災地に入り、その「専門家」から学ぶ意思があるか否かが問われるのだと思っています。
世の中に人々の健康につながらない専門家は、ほぼ存在しません。特にエネルギーや環境問題の目的は、人々を、社会を健康にすることそのものではないでしょうか。そういう意味で、エネルギー問題・環境問題に取り組む方々は医療以上に人の健康の専門家であるともいえるのです。
さまざまな分野で鋭い考察力を持つ専門家の方々が、健康問題を他の「誰か」に任せてしまった結果、福島の貴重な学びが本当に学ばれることなく忘れられてしまう。そういう事態だけは避けたい、というのが、原発事故後の健康問題に関わってきた者としての切実な願いです。
さいごに被災地の医学論文への理解を。
これまで福島において医療者が社会的批判のリスクを冒しつつ発信してきた「医学論文」は、決して医療だけに資するものではありません。得られた知見や、現在医学研究が直面する社会問題を医療者だけの問題傍観することなく、少しでも自分事として共有いただければありがたいと思います。(越智小枝)
(注1)Dahlgren G, Whitehead M (1993). Tackling inequalities in health: what can we learn from what has been tried? Working paper prepared for the King's Fund International Seminar on Tackling Inequalities in Health, September 1993, Ditchley Park, Oxfordshire. London, King's Fund (mimeo).
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。