【IEEIだより】福島レポート なぜそれは「医学」研究だったのか!? 災害と医療研究(4)

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「福島から学ぶこと」エネルギーと環境の「専門家」の方々へ

   次に福島と同じような災害が起きた時、福島で起きた「災害関連死1000人」を防ぐことができるのでしょうか。門外漢である私には、原子力関係機関内部の詳しい事情を知る術はありません。しかし、エネルギー・環境の「専門家」の方々の中には、健康問題は無関係、と思っていらっしゃる方も多いように感じています。

 「原子力にはかかわっていないから」
 「健康は専門ではないから」
 「(個人情報について)法律の専門家でないから」

   それはそのとおりかもしれません。しかし、それは医療者も同じことなのです。

   こと被災地の健康についていえば、一番の「専門家」は被災された住民や自治体です。つまり、被災地の調査・研究においては、今現在の専門性ではなく、被災地に入り、その「専門家」から学ぶ意思があるか否かが問われるのだと思っています。

   世の中に人々の健康につながらない専門家は、ほぼ存在しません。特にエネルギーや環境問題の目的は、人々を、社会を健康にすることそのものではないでしょうか。そういう意味で、エネルギー問題・環境問題に取り組む方々は医療以上に人の健康の専門家であるともいえるのです。

   さまざまな分野で鋭い考察力を持つ専門家の方々が、健康問題を他の「誰か」に任せてしまった結果、福島の貴重な学びが本当に学ばれることなく忘れられてしまう。そういう事態だけは避けたい、というのが、原発事故後の健康問題に関わってきた者としての切実な願いです。

   さいごに被災地の医学論文への理解を。

   これまで福島において医療者が社会的批判のリスクを冒しつつ発信してきた「医学論文」は、決して医療だけに資するものではありません。得られた知見や、現在医学研究が直面する社会問題を医療者だけの問題傍観することなく、少しでも自分事として共有いただければありがたいと思います。(越智小枝)

(注1)Dahlgren G, Whitehead M (1993). Tackling inequalities in health: what can we learn from what has been tried? Working paper prepared for the King's Fund International Seminar on Tackling Inequalities in Health, September 1993, Ditchley Park, Oxfordshire. London, King's Fund (mimeo).

越智 小枝(おち・さえ)
1999年、東京医科歯科大学医学部卒。東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科。東京都立墨東病院での臨床経験を通じて公衆衛生に興味を持ち、2011年10月よりインペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に進学。留学決定直後に東京で東日本大震災を経験したことで災害公衆衛生に興味を持ち、相馬市の仮設健診などの活動を手伝いつつ世界保健機関(WHO)や英国のPublic Health Englandで研修を積んだ。2013年11月より相馬中央病院勤務。2017年4月より相馬中央病院非常勤医を勤めつつ東京慈恵会医科大学に勤務。
国際環境経済研究所(IEEI)http://ieei.or.jp/
2011年設立。人類共通の課題である環境と経済の両立に同じ思いを持つ幅広い分野の人たちが集まり、インターネットやイベント、地域での学校教育活動などを通じて情報を発信することや、国内外の政策などへの意見集約や提言を行うほか、自治体への協力、ひいては途上国など海外への技術移転などにも寄与する。
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。
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