「検察が生半可に捜査すると反乱が起こる?」
ただ、朝鮮日報は「最近の(チョ・グク氏追及)報道は保守・進歩を問わない」と書いているが、チョ氏擁護を展開する大手紙がある。文在寅政権寄りと言われる左派系ハンギョレだ。9月5日付「コラム:チョ候補者への捜査、『断裁機』に上げられた検察」は、チョ氏の捜査は「政治検察ではないか」と批判したのだ。
「国民の判断に任せなければならない事案に検察がメスを入れれば、『矯角殺牛』(角をためて牛を殺す)の愚を犯しかねない。検察は高官候補者の『道徳』と『廉恥』について『国民的判断』を求める事案にむけて、『違法』と『脱法』に対する『司法的判断』を突きつけようと乗り出した。検察捜査は後々まで苦い後味を残すだろう」
確かにチョ氏の問題は、破廉恥で不道徳な行為かもしれないが、本当に違法性を問えるのか。しかも来年4月には総選挙がある。チョ氏の行動の是非の判断は国民に求めるべきであって、その前に検察が「司法的判断」を下し、選挙の動向に介入していいのか。それこそ「政治検察ではないか」というのだ。そして、1997年の大統領選候補者指名争いのさなかに浮上した金大中(キム・デジュン)氏(のちの第15代大統領)の政治資金疑惑のケースをあげる。
「(金大中氏の疑惑について)検察は全国高等検事長会議を開き、捜査を開始するかどうか話し合ったが、慎重論と強行論が真っ向から対立し、結論を出せなかった。結局、事態はキム・テジョン検察総長が捜査を大統領選挙後に留保すると電撃的に発表することで幕を閉じた」
「『不正疑惑の捜査はいかなる聖域もあってはならない』とよく言われるが、その命題が常に正しいわけではない。特に、国民の判断に任せなければならない事案に検察がメスを入れれば『矯角殺牛』の愚を犯しかねない。後日、キム・テジョン検察総長は『当時捜査に着手したなら(金大中氏の出身地である)全羅道で反乱が起こっただろう』と述べた」
韓国の地域対立の激しさは、国同士の対立並みといわれる。朴正煕、全斗煥、盧泰愚、金泳三氏と4代続いた慶尚道地域出身の大統領から、まさに全羅道地域の金大中へ権力が移るかどうかという瀬戸際だったのだ。検察首脳に脳裏に「反乱」という言葉がよぎったのも無理はなかった。
「同じ脈絡で、検察がチョ・グク氏に対する捜査に乗り出したのは、どう見ても間違った決定と思われる。今検察が行っている捜査は、『権力型不正』ではなく、主にチョ氏の過去の教授時代に起きたことだ。何よりもチョ氏をめぐる論争は、道徳の問題であって法の問題ではない。チョ候補者は『修身斉家』(自分の行いを正して国を整えること)が実施できなかったことは謝罪したが、『治国』のために了解してほしいとして踏ん張っている。これが政治過程だ。検察が生半可に割り込めない部分だ」
検察が生半可に突っ込むと「反乱が起こるかもしれないぞ」と、言わんばかりの論調である。
(福田和郎)