安倍晋三首相は2019年9月11日に内閣改造を行なうと発表しているが、韓国メディアのあいだでは、「韓国に無礼な態度を取り続けて日韓関係を悪化させた」として河野太郎外相の交代を期待する声が高まっている。
「外相に茂木敏充経済産業担当相の起用が有力」などとする日本国内の観測記事を受けてのことだが、韓国紙の中には河野氏を「GSOMIA(ジーソミア、日韓軍事情報包括保護協定)破棄の元凶」とまで論評するところもある。
河野氏はなぜそこまで韓国に嫌われているのか。また、茂木氏に期待するのはなぜか。韓国紙を読み解くと――。
国を代表する大使に「無礼者!」と怒鳴るのは言語道断
韓国経済(2019年9月4日付)「『無礼な発言』河野外相の交代が有力......韓日関係の影響『触覚』」がこう伝えている。
「韓日葛藤が高まっている中で、韓国に無礼な発言を吐き出した河野太郎外相が内閣改造で交代されるものと見られる。毎日新聞など日本の主要メディアによると、河野外相が退いて茂木敏充経済再生担当相を起用する案が浮上している。日本メディアは安倍首相の周辺要人の発言を引用、『茂木氏が次の外相になるだろう』と伝えた。最近、合意を導き出した日米貿易交渉で、茂木氏が手腕を発揮したという点を安倍首相が高く評価しているという説明だ」
河野氏が外相を交代させられるのはなぜか。韓国経済によると、理由はこうだ。
「政権3大柱である財務相、外相、官房長官の中で外相だけが交代の対象に取り上げられているのは、河野外相が韓日葛藤の過程で国内政治的立場だけを考慮して妄言を繰り返したためという指摘が多い。河野外相は7月、ナム・グァンピョ駐日韓国大使を招致した席で、ナム大使の話を遮って『(韓国が)極めて無礼だ』と強い口調で話した。当時、日本国内でも河野外相の発言が侍のように『上の人』が一般民である『下の人』に使う言葉を国際関係で使ったという批判が多かった」
これは今年7月19日、韓国最高裁の徴用賠償判決を議論する仲裁委員会の開催に韓国政府が応じなかったことに、河野氏が強く抗議し、韓国大使を呼び出した際の言動を指す。「無礼だ!」という発言は、江戸時代に武士が庶民を斬り捨て御免の「無礼討ち」にした時に発する言葉だ。国家を代表する大使に怒鳴ったのは言語道断というわけだ。
この「無礼発言」には、韓国中のメディアが激昂した。翌日の中央日報(7月20日付)「河野外相の『無礼』な主張に青瓦台はGSOMIAで対抗」は、こう伝える。
「青瓦台(大統領府)のキム・ヒョンジョン国家安保室第2次長は記者会見し、『河野外相がこの日、ナム大使を呼んで見せた態度こそが無礼だった。我々の同席者が日本側の態度の不適切性を指摘し、遺憾を表明した』と明らかにした。こうしたなか、青瓦台関係者はこの日、GSOMIAを対日カードとして活用する可能性をまた表した。キム次長は『GSOMIA協定を通じて日本と交換する情報を客観的な観点で調べた後、これに基づいて我々の利益に合う決定を下すだろう』と述べた。『輸出規制問題とGSOMIAが連係するということか』という記者の質問に対しても『好きに解釈すればよい』と語った」
韓国好きで康外相とも仲良しなのに留任のため強硬姿勢?
韓国大統領府の怒りが伝わってくる言葉だ。河野氏の「無礼」発言が「GSOMIA破棄」への伏線の一つだったというわけである。
ほかにも、河野氏の「高圧的な態度」を批判する韓国紙は多い。中央日報(8月28日付)「康京和長官と親しい河野外相、韓国への暴言も留任のためのあがき」は、河野氏は大臣職の保身のためにことさら韓国を見下す態度をとっていると指摘している。
「『韓国が歴史を書き換えたいと考えているのなら、そんなことはできないと知る必要がある』。河野太郎外相が8月27日の記者会見で、『韓国政府は過去に対する日本政府の認識が不足していると指摘する』という外国人記者の質問にこのように答えた。『日韓間で最も重大な問題は、1965年の協定に関することだ』と述べながらだ。植民地侵略被害者の韓国が歴史を書き換えようとするという河野氏の常識外れの発言は、『韓国が請求権協定など国際的な約束を守っていない』という日本政府の主張を浮き彫りにするためのものだ」
「河野外相の強硬発言をめぐり、外交関係者の間では『内閣改造を念頭に置いている』という分析が出ている。安倍晋三首相は政府改造と自民党役員人事を9月中旬に断行する予定だ。菅義偉官房長官と麻生太郎財務相の留任が有力視される状況で、外相の人選が注目されている。自身の留任がかかる人事を控え、河野外相が安倍首相や日本国民の最近の反韓感情に合わせて強硬発言をした可能性があるということだ」
そのうえで、中央日報はこう皮肉っている。
「河野外相についてはこういう評価がある。『いくら強硬論者のように行動しても彼は河野談話を発表した河野洋平元官房長官の息子』『康京和(カン・ギョンファ)外交長官と対立する姿が見られるが、カメラさえ消えれば表情が明るくなるという。それだけ親しい』『基本的に韓国に愛情を持っている』。こうしたイメージを払拭させるために、脈絡にも合わない発言を突然投じた可能性があるということだ」
外務省官僚は「死神」茂木氏より河野氏留任を望む
では韓国メディアが茂木氏に期待するのはなぜだろうか。同じ中央日報(8月28日付)が、こう指摘する。
「茂木氏は最近大きな枠組みで合意した日米間の貿易交渉を主導した。自民党内の竹下派所属の茂木氏は、首相に挑戦するためのステップとして要職の外相を強く希望しているという。茂木氏には『仕事ができる完ぺき主義者だが、対人関係は円満でない』という評価がある。日本政界事情に明るい有力紙の幹部は、茂木氏が外相になる場合、外務省全体を完全に掌握するだろうが、『死神』のように恐ろしい外相を迎える官僚としては死ぬような思いだろう、と話した。このため外務省では河野外相の留任を望む声が多いという」
そして、こう結んだ。
「しかし東京の外交筋は『現在、日本の外交の方向は安倍首相と菅義偉官房長官の二人が主導するため、河野氏でも茂木氏でも誰が外相になっても韓日関係に大きな変化はないはず』と予想した」
結局、河野氏でも茂木氏でも「どっちでも同じ」ということだろうが、河野氏は9月4日と5日、米ブルムバーグとタイ・バンコクポスト紙に、相次いで英語で寄稿文を寄せた。「日韓関係悪化の責任は韓国にある」とする内容だが、「交替説の河野外相、2日続けて英文寄稿文で世論戦」(中央日報9月5日付)など、「最後の悪あがき」と酷評されている。
(福田和郎)