取り組みが始まって4か月が経過した「働き方改革」。その議論が盛んになったころから、いよいよ実施という段になるのと前後して注目度が高まったのが、グループウエアなどのソフト開発を手掛けるサイボウズ(東京都中央区)だ。
かつて人材流出が止まらず会社の存続が危ぶまれた事態に直面し、複業(副業)自由、残業なし、週3日勤務OKなど、個人の希望により働き方が選択できる、海外や地方在住で在宅勤務もOK――など、大胆な策を採り入れ立て直しに成功。2年前にはその経験をもとに「働き方改革」支援の事業を始め、講演や研修、コンサルティングの依頼が増え続けているという。
クラウドに転換 「kintone」を展開
サイボウズは1997年創業。当時はウェブやIT系の技術が加速度的に普及しており、同社が開発した、組織内での情報共有やコミュケーション支援する「サイボウズ Office(オフィス)」も着々と導入する企業の数を増やした。
2011年からはクラウドコンピューティングに「大きく舵を切り」針路変更。だれでも容易に業務アプリを作成できるクラウドサービス「kintone(キントーン)」を中心にソフトウエア事業を展開している。
ウェブからクラウドへ、Officeからkintoneへ――と、ソフトウエア事業で転換が進む一方で、社内では、労務環境をめぐる改革が強力に推し進められ、その結果、世の中に先駆けて「働き方改革」を実現、ついには事業化にまで至った。
そのサイボウズが2019年8月28日、東京・日本橋の本社でメディア向けに「サイボウズ働き方改革の最新動向レポート」と題したセミナーを開催。講演では、同の独特な取り組みなどが紹介された。
同社は17年11月、新事業部として「チームワーク総研」を設立。グループウエアを扱うソフトウエア事業とともに「チームワークあふれる社会を創る」ことをビジョンに、チームワーク総研は研修、講演、コンサルティングなど「メソッド事業」を担う。
「チームワーク総研」設立しメソッド事業
セミナーでは、チームワーク総研のシニアコンサルタント、なかむらアサミさんが講演。同社の社内での改革について、メソッド事業の取り組みなどについて説明した。
サイボウズが社内で改革に乗り出したのは2005年のこと。 競合するライバル会社が増えて競争激化し、勤務時間が長くなるなど「いまでいうブラック企業」の状態だった。それにより、離職率は28%にまで上昇。社内では危機感が募り「多くの人がより長く、より成長して働ける会社になるべき」と、人事部門などの担当部署からボトムアップ的に動きが始まったという。「あのままだったら、会社がいまあったどうか......」と、なかむらさん。
「10年後に夢と希望を持てるような、持続可能な会社にすべき。いまの世間で行われている改革は小手先だけで、そこまで本質的ではないよう」と、なかむらさんは言う。そこで、サイボウズはどうしたかというと「100人いれば、100とおりの人事制度があってよい」という方針のもと、従業員一人ひとりの個性が違うことを前提に、公平性はさておき、それぞれが望む働き方や報酬が実現されればよいと考え、大胆な多様化を実現した。
複業(副業)自由、残業なし、週3日勤務OKなどのほか「都合に合わせて働く、場所と時間を選べるウルトラワーク」「最大6年の育児介護休暇」「退社しても再入社できる育自分休暇」などを制度化。副業をするにあたっては会社に断りを入れる必要はない。
こうした制度ができるのは、同社のグループウエアなどのツールが支えとなり、また、多様性重視の風土があったからこそ。特に業務改善アプリの「kintone」は、ユーザーが使いやすい仕様で容易に業務管理アプリの作成ができるため、部署やグループ単位で設計ができる点で自由度が高く、多様性文化にも馴染みやすい。
また、こうした労務体制のなかで軽視される可能性がある従業員同士のコミュニケーションを円滑化するため「部活動」を推進。活動の記録をオンラインで残すよう求め、それと交換の形で「部費」を提供している。離職率28%のころは従業員同士の仲がいいとはいえず、その反省から取り組んだ社内融和策の一つだ。
こうした改革で離職率が4%ほどに抑えられるなど成果があがった。また、青野慶久社長が、改革で導入された育児休暇制度を利用。上場企業の経営者として初めて育休を取得し、イクメン社長として知られるようになり、この件を通してサイボウズの働き方改革も知られるようになったという。
講演も研修も依頼が増加
「働き方改革」というと、一般的には休日の増加ということになりがちだが、なかむらさんによれば、それは本質的ではないという。チームワーク総研の調査によると、「有給休暇をどう過ごしたいか」という質問に対して最も多い「希望」は「旅行」なのだが、現実はというと「自宅でゴロゴロ」「自宅で家事・用事」が1位、2位。「休日には遊びたいと思っても、現実には、身体を休めて次の仕事に備えるしかない。ライフを犠牲にしてきた管理層はいいかもしれないが、ライフも大切な若手とはわかり合えない」(なかむらさん)
会社の業務上ではチームワークの要請があるのに、分かり合えず機能不全。そこで個性を重視した大胆な制度を導入する一方、部活などのコミュニケーションの場づくりにも腐心してきた。
青野社長のイクメンぶりから知られるようになったサイボウズの働き方改革。政府による改革が具体化するのと並行してサポートや講演、コンサルティング依頼が増え、「kintone」など商品のグループウエアもチームワークを支えるツールでもありチームワーク総研を立ち上げ事業化を実現した。
サポートでは、小手先の改善ではなく「風土」の改革を重視しているという。講演依頼は2018年1年間で127件だったが、19年は7月時点で110件に。また、問い合わせ件数は18年の68件が、19年は7月時点で84件に。研修の実施は18年17件から、19年は42件(見込み)と大幅アップ。研修では、全社向けやマネージャー対象の講義方式のほか「幹部インターン」として、サイボウズ社内で従業員体験するメニューなどもある。