給与体系だけを整えても社員の不満は解消できない! そのワケは?(大関暁夫)

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   「給与制度の見直しをしたい」。付き合いのある経営者おふたりから、相次いで同じような相談を受けました。

   ふたりの経営者は、中堅工業機械メーカーのT社長と中小システム開発会社のK社長。くしくも共に従業員30人規模の会社です。

  • 給料の不満は尽きないものだが……
    給料の不満は尽きないものだが……
  • 給料の不満は尽きないものだが……

社員の納得性ある給与制度を作りたい

   T社長は、40代の二代目社長。今年(2019年)、創業者である義父の会長からバトンタッチを受けて、全権はT社長の手腕に委ねられました。

   社長が言うには、

「当社は明確な給与体系がないまま、先代は利益が出るたびに平均的に皆の給与を上げてきたのですが、低成長時代に入って以降、頭打ちの様相です。ここ10年で入社した社員たちの不公平感が強く、モチベーションにも影響が出始めています。単に若手の給与を上げるだけでなく、全体として過去の思いつきを排除した納得性の高い給与制度を作れないかと思っています」

とのことです。

   一方、創業20年で60代半ばのK社長の理由は、こうでした。

「うちの業界自体が社員の入れ替わりが激しいのですが、それにしても最近の当社の定着率はよろしくないです。
先日、転職を申し出た社員に転職理由を聞いてみたところ、自分の給料がこの先どのように上がっていくのか見通しが立たないと結婚もできないので、業歴は浅くとも上場企業への転職を考えざるを得なかったと言われました。
確かに、当社は明確な給与制度を社員に提示していないので、これから家庭を築いて生計を担っていこうという世代には不安なのかなと思い、給与制度を確立して定着率を上げたいと考えました」

   しっかりした給与制度がなく、その場その場の流れで業績に合わせて給与を決めてきたり、個別の不平不満が出ると「手当」という名のもとに、いつでも外せる「昇給」対応をしたり、という状況は30人規模以下の会社には多いように思います。

   明確な給与制度がなく場渡り的な対応をしていると、結果として声の大きい社員やベテランの社員たちが優遇され、一部社員が不公平感を感じたり、何をしたら自分の給与が上がっていくのか、わからなかったりして、社員のモチベーションが下がったりあるいは離職率が高くなったりするのです。

「給与の階段」と「資格の階段」さらに......

   このような状況を受けて両社長とも、「給与制度の作り方の基本を教えて欲しい」というのが直接のリクエストだったのですが、こういった場合に給与体系だけを決めて、制度を走らせればいいのかと言えば、決してそうではありません。

   給与体系ができれば、「給与階段」は見える化されますが、自らのキャリアプランを思い描くうえでの「階層」の見える化には至りません。さらに申し上げれば、自分がなぜ今のランクに属しているのかの正当性も見出せず、依然として公平感は見えてこないのです。

   つまりは、給与体系だけを作って制度化しても、こうした問題は根本的な解決に至らないのです。

   では、どうしたらいいのか――。実効性の高い給与制度を作るには、同時に資格制度を明確化してそれと給与制度をリンクさせる必要があります。資格制度とは、たとえば総合1級から始まって3級以上になると管理職相当の主事、さらには統括管理相当の参与に上がるといった「資格の階段」を作ることです。

   さらに並行して制定する必要があるのが、役職制度の明確化です。これは資格が主事になると課長職への任命が可能であるとか、参与で部長職相当となるとかという取り決めと、その昇格要件および役職ごとの役割の明示化です。

   中小企業にありがちな名ばかり部長、名ばかり課長は、その役職への昇格が明確な基準によるものではなく、ただ長く勤務しているからとか社長の覚えがいいから、といった理由で昇格させた人たちです。

   役職ごとの役割を明示していないがために、昇格後も大きな責任を負うでもなく昇格前と何ら変わらない仕事に従事している、という結果になって公平感が損なわれ周囲の不満を生むことにもなります。

   すなわち、それぞれの役職に求められる資質と役割期待を明確化し、納得性の高い役職者運用をする必要があるのです。

鉛筆なめなめの給与では人材難は当たり前

   資格制度、役職制度が決まったらもう一つ、給与決めにおいて最も重要なこととも言える、個々人の給与の上げ下げに関する基準決めが必要になります。それが人事評価制度です。

   噛み砕いていうと、業務に関わるどのような事象を対象として、それらがどういった基準で上下評価されるのかを決め、それを全社員に向けて提示するのが人事評価制度です。

   たとえば、個人業績を人事評価の指標とする場合、目標100%達成以上がA評価、85~99%達成をB評価、60~85%達成をC評価、59%以下をD評価と定めて、A評価者は給与ランクアップ対象、B評価は他の評価項目との総合判断で給与ランクアップ検討対象、C評価は原則現状維持、D評価は給与ランクダウン対象とする、などの評価基準を社員に開示し給与が増えるにはどのようにがんばったらよいかということを、具体的にわかるようにするのです。

   数字では表しにくいような業績以外の評価項目の場合は、どのようなことをどのぐらいすればA評価やB評価になるのかを、わかりやすく言葉で明示する必要があります。

   これらをまとめると、給与に不満が出ているからと言って給与制度だけを作ってもダメ。それとセットになる資格制度、役職制度を整え、それらを極力納得性高く運用するために評価制度を明確化しなければ、結局、意味を成さないことがわかるはずです。

   世間のあらゆる企業の待遇情報が簡単に手に入る今の時代、社員のモチベーションを上げる給与制度のキーワードは「納得性」です。社長が鉛筆をなめて社員の給与を決めていたのでは、今の採用難の時代を中小企業は乗り切ることができないということはしっかり肝に銘じるべきでしょう。

   T社長、K社長には、それぞれ社会保険労務士の先生を紹介して、基本的な給与制度、資格制度、役職制度の構築を助言してもらい、並行してこちらで評価制度のあり方を各社長と相談することにしました。

   令和の話時代に入って、中小企業は厳しさが増していると実感させられます。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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