日韓経済戦争が勃発してから2か月。泥沼から抜け出せない膠着状態に入ったが、韓国では日本政府が輸出規制する半導体素材の国産化や他国調達など「日本外し」が着々と進み、効果を上げている。
また、「日本政府は本気で韓国企業をつぶしにかかってはいない」という読みも広がっている。このままではむしろ、輸出をストップさせられた日本の企業のほうがダメージを受けるかもしれない。いったいどういうことか。韓国紙から読み解くと―-。
100%日本依存の素材国産化に続々と成功
のJ-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、2019年8月30日付「【日韓経済戦争】『打倒日本!』に強力な助っ人 半導体素材国産化に成功した韓国核融合研の実力は?」で、韓国では日本の輸出規制の標的にされた半導体素材を中心に「国産化」の動きが高まるなか、韓国核融合研究所が日本に100%依存してきた半導体素材の開発に成功したと報道した。
その後も「国産化に成功した」というニュースが続々と飛び込んでいる。中央日報(2019年9月2日付)「日本から輸入していた『高純度フッ化水素』、LGディスプレーが国産化に成功」はこう伝えている。
「韓国のパネルメーカー大手LGディスプレーが、日本から輸入してきた『高純度フッ化水素』の国産品代替に成功した。LGディスプレーは国内のある企業が供給したフッ化水素安定性テスト過程を終えて今月(9月)中に生産工程に適用する予定だ」
フッ化水素は半導体やディスプレー洗浄工程に必要な重要素材だ。日本は7月4日、韓国に対する輸出規制強化を発表して「フッ化水素」「フッ化ポリイミド」「フォトレジスト」の3品目を規制対象に指定していた。
ただ、国産品代替に成功したといっても、問題が解決したわけではもちろんない。この国産フッ化水素は生産量が充分ではないため、当分は日本産輸入と併行する方針だ。
その日本産がいつ入ってくるのかは、日本政府の審査次第なのだ。そして、フッ化水素の国産化に成功したのは、LGディスプレーだけではない。サムスン電子グループのサムスンディスプレーも9月中に国産化テストを終わらせるという。
中央日報(9月2日付)「サムスン・SK、2か月ぶりに半導体材料供給安定...年内『克日』可視化」がこう伝える。
「サムスン電子用の国産フッ化水素の試作品が、今月(9月)内に登場する。韓国企業ソルブレインは今月内にDRAM・NAND型フラッシュメモリー工程に使われる高純度フッ化水素の試作品を量産する計画だ。日本企業に劣らない『ファイブナイン』(99.999%)の高純度のフッ化水素液状形態製品だ。中国産の原料(無水フッ酸)を使って生産した。今月内に工場増設を終えると同時に量産に入る」
サムスン電子に続く半導体業界2位のSKハイニックスも子会社であるSKマテリアルズを通じ、年末までにフッ化水素の試作品を生産する計画だ。一方、「ファイブナイン」(99.999%)ほどではなく、半導体よりも低純度のフッ化水素を使うディスプレー業界では、これよりも早く日本産材料の代替作業が進んでいる。前述の中央日報が、こう伝える。
「すでにLGディスプレーは液晶(LCD)だけでなく、有機発光ダイオード(OLED)テレビ生産工程で、国産フッ化水素製品を活用して日本製品の代替に成功した。サムスンディスプレーも現在の工程ラインに投じて進行中の国産フッ化水素の一斉テストを今月中に終えるという計画だ」
どんどん「日本外し」が進んでいるのだ。日本に依存してきた製品の国産化だけでなく、他国からの調達も進んでいる。中央日報が、こう報じている。
「日本が核心材料3品目に対する輸出規制を始めて2か月、韓国企業の供給先多角化と国産化戦略が相当な成果を上げている。サムスン電子やSKハイニックスなどの『脱日本』を通した材料供給が支障なく進行されたことを受け、むしろ日本の素材メーカーの市場での存在感が薄れるだろうとの分析が多く出ている」
日本企業の海外拠点から調達する「迂回作戦」
ほぼ今年の12月末までの素材確保は完了しているという。そこでおもしろい現象が起きている。
「(日本の規制3品目の一つ)フォトレジストの場合、サムスン電子、SKハイニックスともにベルギー現地に生産工場を置いている日本企業JSRとの提携に道筋がついた。JSRとベルギー研究センターIMECは2016年に合併法人を設立して極端紫外線(EUV)用フォトレジストを生産しているからだ」
皮肉なことに韓国の半導体企業は、日本企業の海外拠点(韓国内を含む)を通じて、日本政府が輸出規制をしている3品目を巧みに調達しているのだ。
「仁川松島(インチョン・ソンド)に工場がある東京応化工業(神奈川県川崎市)も、増産までしながらサムスン電子納品量を合わせる計画だ。日本政府が最近、フッ化水素輸出を承認する前にフォトレジストの輸出を先に2件承認したのも自国企業のこのような動きのためだ。
SKハイニックスDRAM研究所出身であるNH投資証券のト・ヒョンウ研究員は『日本政府の規制は初めから韓国政府との政治交渉のための用途だった。グローバルプレーヤーであるサムスン電子とSKハイニックスの半導体生産に打撃を与えるのは難しかった』と話した」
日本の半導体素材企業は、インテルと並び世界の半導体業界のビッグスリーであるサムスン電子とSKハイニックスのグローバル素材供給システムに組み込まれている。たとえ日本にある本社が日本政府に「規制」されても、海外の拠点は両社の支配下にある。だから、日本政府がどこまで本気で韓国半導体メーカーに打撃を与えるつもりだったか、疑問だというのだ。
なぜ日本政府はサムスンの品目ばかりに許可を出す?
こうしたなか、韓国経済(9月2日付)「日本の素材輸出許可物量がすべてサムスン向けの理由......」は、興味深い謎解きを報道している。
「日本政府が輸出規制措置以降3回にわたり半導体素材の韓国向け輸出を許可したが、すべてサムスン電子に納品されるものだった。サムスンと違いSKハイニックスは2か月間物量を確保できておらず、背景に関心が集まる」
「日本の経済産業省は7月に韓国をホワイト国から除外する方針を明らかにしてから韓国向けの半導体素材輸出を3回許可した。8月7日と19日にそれぞれ極端紫外線(EUV)用フォトレジスト(感光液)の輸出を許可した。続けて同月29日には規制措置以降初めてフッ化水素の輸出を許可した。韓国に輸入されるフォトレジストとフッ化水素はいずれも韓国国内の協力会社を通じてサムスン電子に納品されるものだった。サムスン電子に続きメモリー半導体世界2位であるSKハイニックス向けの素材はなかった」
「これはなぜだ?」と、韓国経済記者は疑問を投げかける。理由の一つに、同じ半導体業界でもSKハイニックスの事業構造が、サムスン電子と違っていることが考えられるという。フォトレジストを使う工程が、両社では違うのだ。また工程の中でフッ化水素を必要とする量も、サムスン電子がSKハイニックスよりはるかに多いという違いがある。こうした違いを考慮したうえでも、韓国経済記者は、世界経済に与える影響を日本の経済産業省が「忖度」したのではないかと推測する。
「サムスン電子が(SKハイニックスと違って)メモリー半導体をはじめ、スマートフォンやテレビなどで世界1位のグローバル企業という象徴性のために、日本政府がサムスン電子向けに物量をまず配分したという分析も出ている。ただ日本が現在のように半導体素材輸出を制限的に許容すれば、近く物量を確保する可能性が大きいというのが業界の観測だ。業界関係者は『SKハイニックスも近く日本製フッ化水素の納品を受けられるだろう』と話した」
「サムスンをつぶせば、世界経済に大打撃を与えてしまう」という配慮から日本政府が少しずつ規制を緩めていくなら、いずれSKハイニックスにも素材が許可されるだろうと、韓国業界は読んでいるのだ。
(福田和郎)