コンビニエンスストアなどで売られている惣菜や調理食品をつくっている、福島市にある食品製造の株式会社ニッセーデリカ福島工場。ここでベトナム人技能実習生のチュオン・ティ・ホン・ロアンさん(24)、チャン・ドゥック・ロンさん(23)、ゴー・テー・チェンさん(21)、ブェン・ティー・レー・フェンさん(23)たちが技能実習に取り組んでいる。
日本での実習や生活にも、だいぶ慣れてきた。4人に現場での苦労や気づいたことについて、人材を扱う子会社であるニッセープロダクツ取締役・常務執行役員で事業開発部長の門脇崇史さんとニッセーデリカ総務人事課の安藤雅幸さんに外国人労働者をめぐる問題点を聞いた。
つたない日本語も、仕事で使う言葉は「覚えが早い」
ニッセープロダクツは、ベトナムに「日本語学校」を設けている。そこで来日前に日本語教育を施す。ニッセーデリカで働くベトナム人の多くは、その学校で初めて顔を合わせ、数か月間を共に学び生活することになる。
同社のように、ベトナムから実習生を受け入れている会社では現地教育が一般的。門脇さんによると、当社のルールとして、ベトナムを出国するときに日本語能力テストがあり「N4」(基本的な日本語を理解することができる。日常生活で、ややゆっくりとした会話ができる)相当のレベルに到達していることが必要という。
ただ、そのレベルは「きょうは何時に起きましたか?」「7時です」「何をしますか?」「テレビを見て買い物に行きます」といった程度。それでも、「実習現場で使う言葉は覚えるのが早いんですよ。日本で本気で技能を学びたいという思いが強いからなんでしょうね。2か月ぐらいあれば、不具合なく活躍してもらえます」と、門脇さんはにこやかに話す。
チュオン・ティ・ホン・ロアンさんは、
「初めて来日して、言葉もわからなくて、すごく不安でした。それでも、工場の人たちに優しく教えてもらえたので、だんだん仕事に慣れて、今はだいぶよくなってきています。
たぶん、みんな共通したイメージだと思いますが、日本人はルールを強く守ります。教えられたルールに則って仕事を進めることが大切で重要なのだと思っています」
と話す。
ストレス解消は「睡眠」「お出かけと買い物」
日本企業の多くは、たとえば手の洗い方まで指示されるような、かなり細かくマニュアル化している。それは、イヤにならないのだろうか――。
ロアンさんは、
「仕事や生活の細かな部分は、日本人従業員や技能実習生の先輩たちから教えてもらいました。細かいところまで指示されて、イヤな気持ちになることは、まったくないです。そういうルールがあるとわかっているので、むしろきちんと受けとめています」
と言う。
日本人でも面倒くさいとか、このくらいいいかな、と軽い気持ちでルールを破る人がいる。そういうふうに思ったことはないのか、聞いてみると、
チャン・ドゥック・ロンさんは、
「ベトナムと違って細かなところまで、みなさんに教えてもらっていますし、自分が間違ったところをきちんと教えてもらえるので、面倒くさいなどと思ったこともありません。当然のことだと思います」
と言いきる。
総務人事課の安藤雅幸さんは、
「食品製造の作業なので、たとえば衛生ルールは大切ですし、欠かせません。当社では、最初に母国語のDVDなどを見てもらいます。手の洗い方などの細かなルールを動画で見てもらい、日本人従業員と通訳のベトナム人従業員が一緒に就いて、実際にそこで手を洗ってもらうなどしながら指導しています。ほかの作業でも、同じように指導しています」
と、研修や日ごろの教育は丁寧に進めている。
その一方で、日本人の働き方には長時間労働の問題があり、「あまり手本ならない」ところもある。安藤さんは、「マジメに働いてくれることは非常にありがたいが、やりすぎはよくない。トレーニングと一緒で、鍛えすぎるとカラダが壊れてしまう。技能実習も一緒。ほどほどに。でも、頑張ってください」と、4人に会社の考えを改めて説明する。
工場での長時間労働の問題は、日本人を含め発生していないものの、4人は日本人が働くより、もっとストレスを感じているはず。
ゴー・テー・チェンさんのストレス解消法は、「睡眠をよくとること」。ブェン・ティー・レー・フェンさんは、「お出かけと買い物」。ロアンさんは、「ベトナムにいる家族や友だちと連絡をとること」だそうだ。
日本は人身売買に加担する国ではない!
仕事、給料、生活、文化・習慣とストレスを感じる外国人技能実習生は少なくない。
技能実習生の失踪問題は、そのストレスから起こることが多い。たとえば、職場で乱暴な扱いを受けたり、契約書どおりの賃金が支払われていないなどが失踪の大きな原因となっている。
門脇さんは、
「結局は受け入れる側に、安価な労働力として彼らを雇おうとする企業が未だに存在するところに問題があります。数こそ減少していますが、一部の日本企業に残る悪い癖は、『最低賃金さえ払えば、法律には違反していないでしょ』と、単なる労働力として機械的に考えていること。それがそもそも間違っていて、技能実習生の方々はさまざまな希望や期待を持って遠く母国から学びにきている。習得の難しい日本語も懸命に勉強して渡航してくる。本当にまじめな方々なんです。一部の不当な行為を行う企業があるから、誠実な企業や、そもそもの制度自体まで色メガネで見られる」
と憤る。
ベトナムからの技能実習生は、夢をもって来日している。日本でお金を稼いで家族に仕送りする傍ら、日本の習慣、日本語を覚えて、ベトナムに帰ってから日本で学んだ事を活かして活躍したいと。
「それを日本の企業や、監理組合、ベトナムの送出機関が、彼らを困窮させるようなお金のやり取りをしていいんでしょうか。かなり少なくなってきていると思いますが、ベトナム現地に面接に行って送出機関に過剰な接待を求めたり、ホテル代、航空運賃まで送出機関に負担を強いる人たちがいる。そもそも、そのお金は誰が払ったものでしょうか。実習生として渡航する方々が支払う手数料じゃないですか。『日本は人身売買に加担する国である』。そんなふうに思われていいんですか。そんな訳ありません。
少なくとも、当社にかかわるベトナム人には、そんな思いはさせたくありません。当社が出資して、ハノイに日本語学校を創ったのは、日本で働きたいベトナム人に日本語を教えるのはもちろんですが、送出機関との協力体制の下、実習生として日本に渡航する方々の金銭的、精神的負担をできる限り取り除くため。これは追求し続けなければなりません」
と、門脇さんは明かす。
外国人技能実習機構の設立や、この4月の入国管理法の改正で、こうした不正が一つずつ減っていくことにも期待を寄せている。
今、日本で働いてみて、家族や親戚、友人を日本に呼んで一緒に働きたいと思うか、この先もずっと日本で働きたいと思うか、4人に聞いた。
ロアンさんは、「はい。今はそこまでは考えていないけど、いずれは家族と友達を連れてきたい」。ロンさんも「わたしは、できれば日本で家族と一緒に働きたいです」と言う。
安藤さんは、「ボクはみなさんがずうっとここで、一緒に働いてほしいです。そのために、社員同士がさまざまな場面で助け合える環境を整えていきたい」と話した。
(おわり)