災後の歴史を踏み出すために
(2)将来の差別の予防
昨年(2018年)、一昨年(2017年)に明らかになった福島からの避難者に対するいじめと差別問題は、一定の収束はみています。しかし、根本的な解決はなされておらず、それがいつ何時再燃するかはわかりません。
今年の3.11のテレビ報道が未だに「可哀そうな被災地」を売るような番組であったことから見ても、世間の人々が被災地を一段下に見ている、という印象は拭えません。
たとえば、これから結婚を考える人、子どもを産む人の懸念を少なくするためにも、住民の方の被ばく量や空間線量に対するデータが蓄積し、被害者側が差別に対して反論する術を持っているということがとても重要になります。科学論文はその反論のための貴重な武器となるでしょう。
災害から8年が経ち、少し人心地がついた昨今、改めて当時の「医学論文」に対する非難が浮上している場面を見かけます。
住民の方にとって、自分の記録が「データ」と呼ばれることに対する不快感もあったでしょう。災害の混乱のなか、十分な説明もなく取られたデータもたしかに存在し、そのことは科学者も反省すべきです。なによりも、貴重な情報を提供された住民の方が、そのことを後悔するような事態を早急に払拭すべきだと考えます。
それでも、個々人の記録が集められることで形を変え、社会という集団の「記憶」や「知恵」として被災地に残り続ける。それはとても大切なことではないでしょうか。ひとりひとりの情報がより良い未来を編んでいく。日々の暮らしで作り出される情報の価値を、住民の方々もまた誇りに思えればよいな、と思います。(越智小枝)
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。