【IEEIだより】福島レポート「医学研究」への不信 「研究」という言葉がもたらす「誤解」

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災後の歴史を踏み出すために

(2)将来の差別の予防

   昨年(2018年)、一昨年(2017年)に明らかになった福島からの避難者に対するいじめと差別問題は、一定の収束はみています。しかし、根本的な解決はなされておらず、それがいつ何時再燃するかはわかりません。

   今年の3.11のテレビ報道が未だに「可哀そうな被災地」を売るような番組であったことから見ても、世間の人々が被災地を一段下に見ている、という印象は拭えません。

   たとえば、これから結婚を考える人、子どもを産む人の懸念を少なくするためにも、住民の方の被ばく量や空間線量に対するデータが蓄積し、被害者側が差別に対して反論する術を持っているということがとても重要になります。科学論文はその反論のための貴重な武器となるでしょう。

   災害から8年が経ち、少し人心地がついた昨今、改めて当時の「医学論文」に対する非難が浮上している場面を見かけます。

   住民の方にとって、自分の記録が「データ」と呼ばれることに対する不快感もあったでしょう。災害の混乱のなか、十分な説明もなく取られたデータもたしかに存在し、そのことは科学者も反省すべきです。なによりも、貴重な情報を提供された住民の方が、そのことを後悔するような事態を早急に払拭すべきだと考えます。

   それでも、個々人の記録が集められることで形を変え、社会という集団の「記憶」や「知恵」として被災地に残り続ける。それはとても大切なことではないでしょうか。ひとりひとりの情報がより良い未来を編んでいく。日々の暮らしで作り出される情報の価値を、住民の方々もまた誇りに思えればよいな、と思います。(越智小枝)

越智 小枝(おち・さえ)
1999年、東京医科歯科大学医学部卒。東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科。東京都立墨東病院での臨床経験を通じて公衆衛生に興味を持ち、2011年10月よりインペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に進学。留学決定直後に東京で東日本大震災を経験したことで災害公衆衛生に興味を持ち、相馬市の仮設健診などの活動を手伝いつつ世界保健機関(WHO)や英国のPublic Health Englandで研修を積んだ。2013年11月より相馬中央病院勤務。2017年4月より相馬中央病院非常勤医を勤めつつ東京慈恵会医科大学に勤務。
国際環境経済研究所(IEEI)http://ieei.or.jp/
2011年設立。人類共通の課題である環境と経済の両立に同じ思いを持つ幅広い分野の人たちが集まり、インターネットやイベント、地域での学校教育活動などを通じて情報を発信することや、国内外の政策などへの意見集約や提言を行うほか、自治体への協力、ひいては途上国など海外への技術移転などにも寄与する。
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。
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