日本から遠く離れて、約4000キロメートル。経済発展が著しいベトナムから、技能実習生として来日している人がいる。実習先は、福島市にある食品製造の株式会社ニッセーデリカが営む工場。ここで、コンビニエンスストアなどで売られている惣菜や調理食品をつくっている。
実習生のベトナム人のチュオン・ティ・ホン・ロアンさん(24)、チャン・ドゥック・ロンさん(23)、ゴー・テー・チェンさん(21)、ブェン・ティー・レー・フェンさん(23)に、日本での実習や生活について、聞いた。
「お金を稼いで、家計を支えたい」
ニッセーデリカ福島工場に在籍する外国人技能実習生は、現在18人。うち、女性は8人だ。「重いものを運ぶ機会が多いので、そういった作業は男性のほうがいいなとか、細かな作業は仕事が丁寧な女性のほうがいいかなとか、考えて配属しています。女性が多いと、和気あいあいと、にぎやかなのですが、昨年より人数が減ってしまい、少し寂しい気もします」と、同社・総務人事課主任の安藤雅幸さんは話す。
さっそく日本に行きたいと思ったきっかけを、4人に聞いてみた。ゴー・テー・チェンさんは「お金を稼ぎたいから」と即答。チュオン・ティ・ホン・ロアンさんは「家族の生活を手伝うことです」と答えた。ロアンさんはベトナムに息子を残してきた。「息子のために、日本に行きたかった」という。自らの給料から、ベトナムで暮らす家族のために仕送りして家計を支えたいとの強い思いがある。
チャン・ドゥック・ロンさんは、「経験を積みたい」と言う。ベトナムでは経験できない、日本での仕事や生活を通じて「得られること。吸収できることのすべて」ということらしい。
実際に日本に来て、ベトナムで聞いていた日本の印象や、想像していたことと違っていたことはあるだろうか――。
ロアンさんとロンさんは、「日本は寒い」と口をそろえる。
「ハノイは雪が降らないので、ビックリしました。真っ白で」(ロアンさん)
と、雪には驚いたようだ。
ブェン・ティー・レー・フェンさんは「交通機関」をあげる。
「ベトナムは電車が走っていないので、驚いた?」と、ニッセープロダクツ取締役・常務執行役員で事業開発部長の門脇崇史さんが聞くと、フェンさんは、
「スゴイですよね。電車も人も。たくさんの人がきちんと整然として乗っている」
と、ベトナムにはない光景だと話した。
ロンさんは「自然がキレイ」と言って、笑う。
ニッセーデリカでは、技能実習生が提案すれば、小旅行やスポーツイベントなどのレクリエーションを催している。2018年春には若松城(会津若松市)へ花見に出かけた。
「余暇のイベントは楽しいですし、一番喜びますから」(安藤さん)。
4人の1年先輩で通訳に立つ、クイさんは、「昨年は日本のお花見を体験して、写真をいっぱい撮ってベトナムの友達に見せました」と、楽しげにその写真を見せた。
仕事や生活への慣れとともに、日本語力は日に日にアップ。最近はどこのスーパーが安いか、どこへ遊びに行こうかといった情報交換が少しずつできるようになってきた。4人とも、いつも心がけていることは、笑顔と積極的なコミュニケーションという。
ベトナムを出るとき、「気をつけて」といわれたひと言
4人が日本で働きはじめて1年。ニッセーデリカの子会社のニッセープロダクツがベトナムで開校している日本語学校の卒業生になる。ベトナムにいたときは、みんな学生だった。
―― ベトナムで暮らしていたときは、どのようなことが心配だったのだろう。
チェンさんとフェンさんは「地震」と、すぐに返した。「ハノイは地震ないものね。外国人実習生でも、福島は就労希望者が少ないんです。その(東日本大震災と福島第一原発事故)影響は、他国にものすごく広まっています。残念ながら福島の環境は本当につらいという印象を持つベトナムの方は多い」と、門脇さんはこぼす。
震災から8年が過ぎて、日本では関心が薄れてきた。それが遠く離れた海外、ベトナムで未だにその影響が大きく残っているというのは、意外にも思える。門脇さんは、「報道そのものは海外のほうが強烈でしたからね。あの印象はなかなか拭えないのかもしれません」と言う。
安藤さんも、「当時、わたしは名古屋事業所にいたのですが、ブラジル人の方などは地震報道を見て、その1週間後くらいには『怖いから帰ります』と辞めていった人もいました。それが各営業所で少なからずいましたから。海外の方からすれば、そのくらいの衝撃だったんです」と、振り返る。
日本では、どこに住んでも地震は身近な存在だ。実際に、4人が来日してからも揺れることはあった。
チェンさんは、「地震、ありました。寝るときとか。突然なので、驚きました」と話す。
フェンさんも、「でも、小さいから大丈夫です。初めてのときは怖かったけど......」と、苦笑する。
安藤さんによると、東日本大震災の影響で「日本は地震が頻繁にあって、怖い」という印象は根強いという。「面接の時も『地震、多いですか』と聞かれますし、そこは『多いです』ときちんとお答えします。ただ、地震に対する備えも万全を期していることを伝えています」と、不安を取り除いている。
ベトナムに持ち帰りたい「ゴミ分別」のココロ
現在、来日している技能実習生は、期限が来るとベトナムに戻らなければならない。日本にいる間に、これだけは覚えて帰ろう、これを覚えてベトナムに帰った時に生かしていこうというようなものはあるのか、聞いてみた。すると......
ロアンさんは「ゴミの分別」をあげた。ここでのふだんの生活でも、ゴミの分別は日常的にあるし、ベトナムでも最近はゴミの分別活動が始まっているそうだ。
「日本で勉強したことなので、みんなでやりましょうという感じですね」と、ロアンさんは呼びかけたいという。
「ゴミの分別は先進国では当たり前ですが、ベトナムやアフリカ諸国などではこれから必要になってくるでしょうし、それが徹底されてくると思います。その時に、指導できるようになれば、うまくすると新しいビジネスができるかもしれません。ゴミ分別の先生みたいな存在になれればいいですよね」(安藤さん)
ロンさんは、
「わたしが帰国したら、日本人の仕事のやり方とか、日本人のマナーとかを伝えたいです。やはり、ルールを守ること。時間を守ること。責任感が強く、いつも自分の仕事をできる限り頑張って終わらせること。それが誰でもふつうにできることが、日本人のスゴさだと思いました」
と話す。
時間やマナー、ゴミ分別について、日本人は厳しいということを来日前に聞いていたが、実際に体感した。
「遠く離れた国で家族や自分の将来のために!」と、大きな希望と多くの不安を抱えて渡航してきた実習生の方々に、実習において習得する技能に加え、体得した習慣なども同時に母国に持ち帰り、帰国後の就業や生活に活かし、活躍してほしい。