【日韓経済戦争】GSOMIAまさかの決断 韓国紙が伝える文在寅大統領「3つの理由」

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   「文大統領、真っ向勝負!」(ハンギョレ)、「何のための破棄なのか」(中央日報)、「理性失った」(聯合ニュース)......。

   2019年8月22日、韓国大統領府は日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA、ジーソミア)の破棄を発表した。「まさか」の挙に韓国メディアも「大喝采」と「失望」の賛否両論だ。

   文在寅(ムン・ジェイン)大統領が予想外の決断に打って出た理由は何なのか。韓国紙を読み解くと――。

  • GSOMIA破棄を聞き、ソウルの日本大使館前で喜ぶ「安倍糾弾」の市民たち(ハンギョレ8月23日付紙面より)
    GSOMIA破棄を聞き、ソウルの日本大使館前で喜ぶ「安倍糾弾」の市民たち(ハンギョレ8月23日付紙面より)
  • GSOMIA破棄を聞き、ソウルの日本大使館前で喜ぶ「安倍糾弾」の市民たち(ハンギョレ8月23日付紙面より)

迷った時はスタートライン「国民の自尊心」に帰る

文在寅大統領
文在寅大統領

   8月22日、韓国大統領府に関係閣僚が集まり、国家安全保障会議(NSC)が開かれた。韓国メディアも大方の見方は「延長」だったが、発表の11分前に韓国大統領府の報道室に緊張が走った。中央日報(2019年8月23日付)「青瓦台、GSOMIA破った...... 韓日米の安保地形に亀裂」はその様子をこう伝える。

「GSOMIA終了は多くの専門家の予想とは違った結論だ。青瓦台関係者が発表11分前、メディアに報じる準備をするように『(印刷)輪転機は用意しておくほうがよさそうだ』と遠回しに話したほどだ。青瓦台によると、内部的にも『未来の韓日関係』を念頭に、GSOMIAを維持すべきだという流れが強かった。しかし、文在寅大統領が光復節(8月15日・解放記念日)の祝辞で『対話に出れば喜んで手を握る』とし、前向きな対日メッセージを出したが、日本からは何の反応もなかった」

   22日の当日になっても国家安全保障会議(NSC)のメンバーは迷っていたのだ。

「NSC常任委が開かれる直前までもGSOMIA延長について結論が出なかったという。青瓦台関係者が「『難しい時は原則が重要だと考える。それで原則通り決めた』とし『国家利益ということは名分も重要で実利も重要だが、国民の自尊心を守るのも重要だ』と発言したのと脈を同じにする」

   つまり、「迷った時は原則(スタートライン)に帰る」というわけだが、文政権の場合、原則は「国民の自尊心」だったというわけだ。しかし、韓国の政界や韓国メディアは「国民の自尊心を守るため」という大統領府の発表を額面どおり受け取っていない。文大統領の「まさかの決断」の裏側に何があったのか、主に3つの理由が指摘されている。

側近の数々のスキャンダルを国民の目からそらす?

   その一1つ目は、最近メディアを騒がせている文在寅大統領の側近中の側近で、後継者と目されているチョ・グク前民情首席秘書官のスキャンダルだ。チョ氏は次期法務大臣に指名されているが、民間投資会社への巨額投資、親族を介した不動産の偽装売買や財産隠し、娘の大学(釜山大学)不正進学疑惑、息子の軍入隊忌避疑惑などに見舞われているのだ。

   ちょうどNSCが開かれる8月22日当日には、娘の疑惑について聯合ニュース「釜山大 法務相候補の娘の大学院入学に関する調査開始」がこう報じていた。

「釜山大は22日、法務部長官候補に指名されたチョ・グク氏の娘が同大医学専門大学院に入学するまでの過程について内部調査を進めていると明らかにした。チョ氏は長官候補に指名されてから、娘が高校生のときに医学論文の第1著者に名を連ね、大学や大学院に不正入学したとの疑惑が持ち上がり批判にさらされている。釜山大側がこれまでに確認したところでは、チョ氏の娘が論文の第1著者として名を連ねた事実は本人の自己紹介書にはなかった」

   「左翼」と言われる文在寅政権は、大企業批判が政策の一丁目一番地だ。法務大臣はその企業の不正を取り締まる立場にある。こうした企業不正疑惑に加え、特に若者層から猛批判を浴びているのが娘の大学進学疑惑である。高校生に医学の専門論文など書けるはずがなく、チョ氏自身もほかの疑惑については「批判を真摯に受け止める」としていたが、娘の疑惑については「フェイクニュースだ」と真っ向から否定していたのだから、窮地に陥るニュースだ。

   聯合ニュース(8月22日付)「与党歓迎 最大野党は『理性失った』」は文在寅大統領のとんでもない狙いをこう伝える。

「最大野党・自由韓国党は文在寅大統領が、法務部長官候補に指名したチョ・グク前民情首席秘書官の家族に関する不正が取り沙汰され、この人事に対する批判が高まる中、このような決定を下したのは、批判をそらす目的があると非難した」

   そして、中央日報(8月23日付)「青瓦台、GSOMIA破った......韓日米の安保地形に亀裂」はこう皮肉っている。

「野党・自由韓国党のナ・ギョンウォン院内代表は『結局、この政府が国益よりは政権の利益に伴う決定を出した。チョ・グク氏で乱れた政局と関係がなくはない。今日、文在寅大統領はチョ・グク本人を守るために、国民全員の"祖国"を捨てた』と批判した」

   「チョ・グク」は韓国語で「祖国(チョグク)」を意味するのだった。

文大統領が激怒したトランプ大統領の下品な態度

   もう一1つは、文在寅大統領のトランプ大統領に対する激しい憤りだという。ハンギョレ(8月23日付)「ニュース分析:米国は韓日対立の解消は後回し 防衛費の引き上げ・ミサイル配備に圧力かける」は、日韓だけでなく米韓の間でも安保体制をめぐる深刻な対立があり、文在寅大統領は米国に対しても今回の措置で強い警告を与えたと指摘する。

「韓国政府の今回の決定は韓日関係を越え、韓米関係、ひいては北東アジア秩序を揺さぶる引き金になる。まず、日本に対しては、歴史認識の問題を安保領域にまで拡大したことへの追及の意味が大きい。米国に対しても、同盟に対する責任と尊重を求める警告と言える」

   背景には、米国と日本が主導する中国を牽制したインド太平洋戦略では、韓国はないがしろにされていることがある。米韓日同盟といいながら、ASEAN国家並みの扱いではないかというわけだ。さらに、こう続ける。

「韓日の対立を解消するための韓国の努力には手をこまねいて、防衛費分担金の引き上げや中距離ミサイル配備カードで韓国を圧迫することに対する、文在寅政府のメッセージということだ。米国は、最近訪韓したジョン・ボルトン国家安保補佐官とマーク・エスパー国防長官を通じて、韓国がGSOMIAを維持することを希望したが、韓日の対立は両国が解決しなければならない問題だとして線を引いた」

   つまり、あれほど米国に日韓対立の仲裁役を頼んだのに、カネばかり要求する冷たい仕打ちに怒っているのだ。その悔しさが、朝鮮日報(7月25日付)「韓日問題には言葉少な、『安保請求書』を差し出したボルトン氏」にも表れている。

「ジョン・ボルトン米大統領補佐官は7月24日、青瓦台(大統領府)でチョン・ウィヨン国家安保室長に会い、ホルムズ海峡派兵問題と韓米防衛費分担金問題を話し合った。韓国政府は、韓日対立局面における米国の『仲裁役』に大きな期待を抱いていたが、青瓦台が同日公表した『韓米安保室長協議の結果発表文』には韓日関係の言及がなかった。外交関係者の間からは、ボルトン氏は韓日確執仲裁要請に対しては明確に答えないまま『安保請求書』を差し出して行った、という声も上がった」

   のちに「安保請求書」は、従来の5倍以上の50億ドル(約5400億円)で、そもそもボルトン氏の訪韓の目的は防衛費増だったことが判明する。結局、文在寅政権は10億ドル増を飲まされた。そして、トランプ氏のこんな高笑いを、ハンギョレ(8月13日付)「トランプ大統領『韓国の防衛分担金の引き上げ、家賃の集金より簡単だった』」が伝えるのだ。

「ニューヨークポストは、トランプ大統領が8月9日、ニューヨークで開かれた再選キャンペーンの募金行事で、少年時代に父親とともに家賃を集金していた経験に触れたうえで、『ブルックリンの賃貸アパートで114.13ドルをもらうことより、韓国から10億ドルを引き出す方が簡単だった』と述べたと報道した。トランプ大統領は、文在寅大統領が自身の交渉にどのように屈服(caved in)したかを描写し、文大統領の口調を真似した。彼は、日本の安倍晋三首相のものまねもした。同盟との安保問題を自画自賛のジョークのネタにしたうえ、外国首脳に対する最小限の礼儀も示さない下品な態度を露にしたのだ」

   ちなみに、ハンギョレによると、安倍首相の口真似はこんなやりとりからだ。

「また、貿易問題と関連し、安倍首相の口調を真似した。トランプ大統領は第2次世界大戦当時、神風特攻隊だった安倍首相の父親に自分がどれほど魅了されたかを出席者に語った。トランプ大統領が『神風特攻隊は酒や薬に酔っていたのか』と聞くと、安倍首相は『彼らはただ祖国を愛しただけだ』と答えた」

最後のトドメになった産経の世耕経産相インタビュー

世耕弘成経済産業相(2016年10月撮影)
世耕弘成経済産業相(2016年10月撮影)

   そして三3番目の理由として、韓国側の怒りのダム決壊に最後の一撃を与えたのが世耕弘成経済産業相の「侮蔑的な発言」だというのだ。

   折りも折り、韓国大統領府で国家安全保障会議(NSC)が開かれた、まさに当日の8月22日付産経新聞朝刊に世耕氏のインタビューが掲載された。「輸出管理 ものづくり大国の責任」という主見出しに「韓国、冷静な反応を」「なぜ約束守れない」という小見出しがついていた。

   記事の中身は、これまでの日本政府の主張にそった穏当な内容と思われるが、韓国の左派系の人々から「嫌韓・極右メディア」とされる産経新聞に載ったことが、大統領府のメンバーを刺激したようだ。ハンギョレ(8月23日付)「韓国政府、日本の対話拒否・侮辱的反応にGSOMIA終了の正攻法を選んだ」がこう伝える。

「大統領府関係者は『世耕経産相が産経新聞とのインタビューで、かなり侮辱的な反応を示した。あふれる寸前のコップに"最後の一滴"を落としたようなものだ』と述べた。世耕氏は『韓国には兵器に転用される恐れがある物資の管理体制が不十分な点があり...日本側の申し入れにもかかわらず、3年間も当局間の協議が全く開かれず、改善の展望が見られないため(制度の)運用を見直した』という無理な主張を展開し、『韓国は冷静に反応してほしい。不買運動などの拡散は望ましくない』という、さとすような発言まで行った」

というのである。「上から目線」の物言いが最後のトドメを刺したというわけだ。

(福田和郎)

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