「日韓経済戦争」は、韓国内では収まるところを知らぬかのように広がっている。
企業内では、日本に由来している役職名などを駆逐する動きが始まり、果ては国会の法律用語まで見直す動きになってきた。
「キム取締役」と「パク専務」が企業から消える理由
さて、反日運動の広がりは、韓国の政財界へ思わぬ波紋を引き起こしている。まず財界だが、企業組織のあり方まで変える動きが、反日運動の影響を受けて加速しそうだというのだ。中央日報(8月19日付)「韓国企業、人事制度を改編中...職級中心の日本式から脱却」が面白い動きを報告している。
「『キム取締役』と『パク専務』が企業から消えている。『企業の星』と呼ばれる役員人事制度に変化が生じている。職級を単純化し、担当する業務に合わせて呼ぶのが変化の方向性だ。今年に入って役員人事制度に最初に手を加えたのが現代自動車だ。同グループは今年3月、取締役待遇-取締役-常務-専務-副社長-社長の6段階だった役員職級体系を、常務-専務-副社長-社長の4段階に簡素化した。従来の取締役待遇-取締役-常務職級は常務に統合した」
SKグループの改編役員人事制度はもっと破格的だ。副社長、専務、常務をなくして一つに統合。呼称を室長や本部長など職責中心に変えた。「キム専務」ではなく「キム購買本部長」と呼ぶのだ。意思決定を機能的にするのが狙いだが、もう一つの目的が「日本的経営システム」からの脱却だという。
「財界では職級中心の日本式人事制度から脱却する過程という解釈が出ている。常務-専務-副社長という役員職級体系は日本式の企業システムと文化を導入する過程で入ってきたというのが定説だ。財界関係者は『社員-課長-部長-常務-専務という韓国企業の職級体系は日本から導入した』とし、『専門経営という傾向に基づいて職級ではなく職責中心に企業の人事制度が変わり、役員制度も変化している』と話した」
こうした動きは、今年初め頃から財閥系大企業を中心に始まっていたが、「日韓経済戦争」勃発を契機に、「大企業が役員人事制度改編を主導する形で経済界全般に広がりそうだ」という。目指すのは米国式経営システムだ。
「米国などでは最高経営責任者(CEO)を除いた役員職級はバイスプレジデント(Vice President)とシニアバイスプレジデント(Senior Vice President)に単純に区分される。米国企業の場合は一般的に職級と職責を同時に使用する。アップルを例に挙げると理解しやすい。アップルが公開した役員年俸支給表によると、例えばルカ・マエストリ・アップル氏は、年俸支給表を通じてシニアバイスプレジデントという職級と、最高財務責任者(CFO)という職責を共に公開している」
韓国国会は「日本式法律用語」撲滅ができるのか?
経済界の「日本式からの脱却」は理解できるが、一方、政界の方は不可解だ。中央日報(8月19日付)「『日本式表現捨てよう』...... 文喜相議長、法律用語213個の改正要求」は理解しがたい動きを紹介している。
「韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長は8月19日、日本式表現や難しい漢字語など一部の法律用語を改正するよう求める意見書を、国会運営委員会を含めた10の常任委に伝達した。文議長は意見書で『国会が立法機関として与えられた責務に忠実になるためには、日本式用語など難しい法律用語を持続的に改正していかなければならない』と明らかにした」
そして、「法律を明確な用語で表現し、一般国民ならば誰でもその内容を簡単に理解して、法をしっかり守れるように努力しなければならない」と強調。「表現の純化」を進める内容は相当数あるが、とりあえず具体的に213個の「日本式法律用語」を選定し、変えていくという。
この記事の読者意見投稿欄には「日本由来の用語を変えたら、法律全部を変えなくてならなくなる。ズブズブになるよ」という心配が付いていた。確かに、韓国で使われている「法律用語」や「経済用語」には、基本用語からして日本から入ってきたものが非常に多い。金光林・新潟産業大学教授の論文「近現代の中国語、韓国・朝鮮語における日本語の影響」(同大学人文学部紀要第17号・2005年8月)によると、次の言葉などがそうだ。
議会、議員、自治、自由、民主、政党、投票、官庁、否決、法廷、判決、自白、財政、有価証券、会社、株式、給料、勤務、輸出、輸入、出荷、料金、労賃、請負、契約、差押、品切、組合、貸切、特許、受付、見習......。
ほかにも、過労死、宅配、日照権、蒸発、団地、医師、生徒、運転、映画...... など枚挙にいとまがない。記事では、213個の用語が何かを明らかにしていないが、大変な作業になりそうだ。
(福田和郎)