食品製造のニッセーデリカ福島工場で働くベトナム人技能実習生は、現在18人。グループ会社であるニッセープロダクツの取締役・常務執行役員で事業開発部長の門脇崇史さんは彼らを、昭和の高度成長期に集団就職で東京にやって来た学生になぞらえ、「金の卵」と評価する。日本経済と、将来のベトナム経済の担い手として、大切に育てている。
外国人技能実習生の実態と、2019年4月にスタートした外国人労働者の受け入れ拡大について、採用する企業側の声を、門脇さんとニッセーデリカ総務部・総務人事課主任の安藤雅幸さんに聞いた。
「繋がる」仕組みをつくる
来日した外国人技能実習生が実習を始めるにあたって、ニッセーデリカは惣菜をつくる作業を、会社が一から教えている。その研修スタイルは、現在でこそ軌道に乗っているが、かなり苦労した。
安藤雅幸さんは、
「最初に実習生を迎え入れたときは一気に20人と人数も多く、管理者が一人だったこともあり、初期の実習はとても大変でした。でも最初に会社の規則や、衛生管理を含めた製造における基礎、または生活における周辺環境などをしっかりと覚えてもらうことで、次の子、また次の子と教えていける仕組みが重要と考えました。その『繋げる』流れができれば、やるべきことを知っている先輩がいるので、実習生がそれを聞いて学んでいくことができます。教えて、教わるといったコミュニケーションもあって、新しい実習生が日ごろの生活も含め、不安なく馴染んでいくことができるのです」
と、打ち明ける。
「繋げる」仕組みについて、安藤さんはこう続ける。
「自社の通訳は必須ですね。通訳の雇用をしっかりとする、雇用環境を整える。はっきりいって賃金や労働条件など、手厚い待遇をしています」
技能実習生とその通訳の方との円滑なコミュニケーションにより、繋げる仕組みをより強固なものにしている。それにより、技能実習生本人たちも安心して滞在することができる。本人たちの安心は、母国の親類や友人たちに必ず伝わる。
門脇崇史さんは、
「人材確保が目的です。人がほしい会社は他にもたくさんありますし、たとえば東京では福島より時給が約200円高い。ベトナムで今、技能実習生として日本に行きたい人は、だいたい手取りで10万円が残るくらいを一つの基準にしています。できる限りその希望を超えてあげたい、働く地域による格差を小さくしたい。たとえば、東京近郊の工場の寮に住んでいる実習生からは家賃を徴収し、福島では取らないというような調整を行っている。これは技能実習生を含む外国の方々の大都市圏への集中防止を、各企業が自助努力でやっているわけです」
と、厳しい現状を語る。
外国人労働者を大切にしないと......
「戦後の高度成長期、地方から集団就職で『金の卵』と言われていた学生さんと、まったく同じですね。日本人が昔、東京などに出稼ぎに来ていた。それを今、外国人労働者に頼っているんです。日本人がやらなくなった仕事をまかなってくれているということですね」
そう門脇さんは話す。
4月の法改正で「特定技能」の枠組みができて、新たに外国人労働者を受け入れやすい制度がはじまった。安藤さんは、
「ようやく、この段階まで来たかというのが本音です。ただ、この制度は基本的にはメリットしかないと思っています」
と、受けとめている。
「日本で働いている外国人労働者は約126万人。労働者全体の1.8%しかいないんですね。だいたい、日本だけですよ。『言葉を覚えてから来なさい』などと強要する国は。鎖国のようです。在留資格が出にくいなど、日本特有の事情があってそのようになっていますが、そう考えると(新しい制度は)ほんとに歴史的な一歩です。 食品業界は、わずか3万4000人の枠しかありませんが、これが実質的な開国と受けとめています。日本がようやく、世界に向けて開かれた雇用環境をつくっていくという意思表示を示したのですから」
と、門脇さんも前向きだ。
少子高齢化の影響で人手不足が続くなか、人材の確保については、現状深刻な懸念事項もある。それは技能実習や特定技能に限った事ではなく高度人材を含む外国人労働者の争奪戦が、欧米、中国などを筆頭に世界規模ですでに始まっていることだ。優秀な人材の囲い込みは諸外国も当然に進めており、日本国内のみの問題ではない。
「そこで日本が低賃金で彼らを使おうなんていうことをやってしまったら、永住権の付与などを始めとするさまざまな施策で人材の流入を促す諸外国に敵うわけありません。多くの優秀な外国人材が日本で働きたいと希望する環境を創造することを念頭に、日本全体の経済の発展のために活躍してもらうべく、たとえば大都市圏への集中を防ぐ、悪質なブローカーを排除することなどは、国が当然のこととして、やっていただきたい」
と、注文を付ける。
門脇さんは、こう続ける。
「その一方で、外国人材の流失を防ぐのは、法律だけでは完遂できないのではないかと思います。ふだんの仕事でも、生活でも、受け入れる企業がどれだけ彼らを大切にするかにかかってきるはずです」