その95 東京五輪の金メダル「獲得目標」 「こんなものいらない!?」(岩城元)

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   2020年7月24日の開催まで1年を切った東京五輪・パラリンピックだが、日本オリンピック委員会(JOC 山下泰裕会長)は、この五輪で日本が金メダル30個を獲得し、国別では米国、中国に次いで世界第3位に入ることを目標にしている。

   政府もそれを望んでいるようだ。

  • 2020年東京五輪のメダルのデザイン。中央が金で、左が銀、右が銅の各メダル。(2019年7月25日付の朝日新聞朝刊から)
    2020年東京五輪のメダルのデザイン。中央が金で、左が銀、右が銅の各メダル。(2019年7月25日付の朝日新聞朝刊から)
  • 2020年東京五輪のメダルのデザイン。中央が金で、左が銀、右が銅の各メダル。(2019年7月25日付の朝日新聞朝刊から)

金メダル目標はJOC首脳陣の「威信」のためか

   日本が過去の五輪で獲得した金メダルの数は、1964年東京大会と2004年のアテネ大会での各16個が最も多い。30個はその倍近くになるが、JOCの山下会長は「決して簡単ではないが、実現は可能だ」と言う。

   しかし、そもそも、こうした金メダルの「獲得目標」を設定すること自体に大いに疑問がある。

   30個の金メダル獲得は確かに不可能ではないかもしれない。米国のデータ専門会社あたりからも、日本が30個やそこらの金メダルを獲得し、米国と中国に次いで世界第3位に入るという予測が出ているようだ。

   1964年の東京五輪などと比べて、競技種目が大きく増え、空手など日本が得意とする種目が新しく加わったことも、影響してくるだろう。

   もちろん、日本人選手が五輪で金メダルを取ってくれれば、僕も非常にうれしい。「日の丸」が掲揚され、「君が代」が流れると、誇らしい気持ちになる。

   とはいえ、JOCが金メダルの獲得目標を掲げるのはいかがなものか――。僕には、競技に出るわけでもないJOCの首脳陣が、自分たちの「威信」を示すために、選手やコーチたちに発破をかけているように思える。選手やコーチたちが委縮しないだろうか。

   圧倒的な強さを誇る米国の水泳界では、選手たちに金メダルの獲得目標を明かさないという話を聞いたことがある。選手たちにプレッシャーをかけないためで、そのほうが実力を発揮できるからだそうだ。

「メダル至上主義」は健全とは言えない

   五輪で金メダルを獲得した選手やチームは立派だと思う。そして、その栄誉は選手個人やチームに与えられるべきもので、JOCや政府の栄誉ではないはずだ。それなのに、「上から目線」で金メダルの獲得目標を示すなんて、僕はどこかおかしいと思う。

   また、金メダル、金メダル......と叫ぶことで、銀メダルや銅メダルの価値を必要以上に下げてしまわないだろうか。金メダルを期待された選手個人やチームが、たとえ銀メダルや銅メダルに終わったとしても、世界の2位であり、3位である。それはすごいことである。8位入賞でもたいしたものである。

   五輪と言えば、何よりもすぐメダル、それももっぱら金メダルの獲得に関心が集まる――そんな「メダル至上主義」は決して健全とは言えない。もっとおおらかな気持ちでスポーツ自体を楽しみたいものである。(岩城元)

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
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