日本時間の2019年8月2日未明。米国のトランプ大統領は、中国への関税第4弾を表明しました。約3000億ドル分(約33兆円)の、中国からの輸入品に9月1日から10%の制裁関税を課すことになりました。
これに伴い、中国・人民元は下落。対ドルで2008年以来となる11年ぶりの元安水準を更新することとなりました。米中貿易戦争が激化したとあって、株式市場は暴落しましたが、ビットコインは上昇。わずか5日で約20万円も上昇することとなったのです。
この背景には、中国人が人民元を売って、ビットコインを買ったからだと言われています。しかし、そもそも中国(香港を除く)では仮想通貨の取引所は運営されていないのですが、これはどういうことなのでしょうか――。
今回は、仮想通貨との関わりの深い、中国事情と中国人投資家について、解説していきます。
2015年、なぜ中国人はビットコインを買い漁ったのか
日本で仮想通貨がブームになったのは2017年ですが、中国では2015年ごろから、かなり盛んに取引されていました。
取引される通貨別のビットコイン取引高を示した、下のグラフをご覧ください。
※ 世界のビットコイン取引量(出所:Bitcoin日本語情報サイト)
2016年には、2017年末の仮想通貨ブームのピーク時と同じくらいの金額が人民元で取引されていることがわかります。中国の方々はさぞかし儲かったのでしょうね。
さて、それはともかく、なぜ中国人はこれほどまでにビットコインを買い漁っていたのでしょうか。それはズバリ資産逃避、キャピタルフライトというやつです。
中国人は、そもそも人民元を信用していません。しかしながら、個人は基本的に年間5万ドルという両替制限があります。そこで目を付けたのが、ビットコインでした。
人民元を売ってビットコインにすれば、当時右肩上がりでしたので資産価値は上がります。さらに、米ドルやユーロなどの外貨へ両替することもできます。中国人にとって、ビットコインは資産を逃避させる「抜け道」だったワケです。
そんなに取引されるの? と思うかもしれませんが、2017年末に日本の仮想通貨取引所の口座には10兆円を超える額の資産がありました。中国の人口は日本の10倍です。途方もない金額が動いたことは間違いないでしょう。もしかしたら、人民元を動かすだけの威力があったのかもしれません。
中国人は仮想通貨をどこで買うのか?
さて、せっせとビットコインを売買していた中国人ですが、2017年に入ると突然状況が変わります。年明け早々に中国当局が仮想通貨取引所に待ったをかけ、運営を停止させたのです。
2016年に大きく資産が流出しており、これがビットコインの影響だということが気づいたのでしょう。その後、5月から取引の再開が始まりましたが、ICO詐欺(取引所の上場前に独自の仮想通貨を販売するプレセールであるICOを騙る詐欺)も横行し、中国での仮想通貨はかつてのシャドーバンキングや理財商品(高利回りの資産運用商品)のような状態になっていました。
そういった影響からか、2017年9月に再び規制が入り、10月末には中国の仮想通貨取引所は営業を停止することになりました。
ところで、中国人は今どこで仮想通貨を売買しているのでしょうか――。香港を除き、中国では仮想通貨取引所はありません。
答えは、コミュニケーションアプリである「ウィチャット」や決済サービスである「アリペイ」を利用しているそうです。
わかりやすく例えると、「LINEでビットコインを100万円で買いたいけど、売ってくれる人はいますか?」とコメントして、売ってくれる人にLINEペイで日本円を送金するというイメージ。つまりは、個人間取引で買えるということなのです。
そうやって、いわば「自前」の取引所を完成させているらしく、売り手と買い手はかなりの数にのぼり、日本の仮想通貨取引所も顔負けの取引高を誇っているとみられます。
人民元が安くなるとビットコインをせっせと買う
しかし、2019年5月にはこれも禁止されました。よほど取引が活性化していたのでしょう。それでも、中国人は諦めません。ウィチャットよりも便利な(笑)取引所の相対取引サービスがあり、そこにはご丁寧に中国語の案内が用意されています。支払いはアリペイ(Alipay)が使えるようです。
※ 中国相対取引(出所:OKEx)
また、海外の取引所にアクセスして、ふつうに売買しているそうです。海外の取引所の話を聞くと、ユーザーの半数が中国人だというところもあります。
もはや、中国人の仮想通貨売買を止めることはできないでしょう。何だかたくましさを感じますね。
そういうワケで、人民元が安くなると中国人は資産を守るために、せっせとビットコインを買うため、価格の上昇に繋がりやすいのです。(ひろぴー)