訪日外国人観光客の増加が著しい。そうしたなか、ここ数年指摘されているのが、夜のアクティビティの不足。外国人観光客からの不満の声は少なくなく、コンサートや観劇、ナイトミュージアムなどのイベントは、国を挙げて推奨している。
そんな現状に、風穴をあけるべく新たに設立されたのが、ナイトクラブ「ORIZURU」を運営するORIZURU entertainment(オリヅルエンターテインメント)だ。エグゼクティブ・ディレクターで世界的に活躍する現役DJの筒井亮さんと、ディレクターでデザイナーの秋葉達雄さんに、ORIZURUのコンセプトや今後の展開を聞いた。
外国人にとって、東京の夜といえば「歌舞伎町」
―― 新しいクラブ「ORIZURU」をオープンしましたが、「ナイトクラブ」をつくろうと思ったきっかけを教えてください。
筒井亮さん「外国人旅行者が日本に来て、昼間は観光して、夜に食事して、その後どうする、となった時に、今もクラブ自体はあるんですが、盛り上がるのは深夜2時くらいで、それまでの時間をどこで過ごすかというと、選択肢が非常に限られています。
観光庁の調査によると、訪日外国人が使用する旅行消費額のうち『娯楽費』が占める割合はわずか3.3%(観光庁、「楽しい国日本」の実現に向けた観光資源活性化に関する検討会議 提言資料より)だそうです。そこで、ナイトエンタテイメントの充実が必要だと考えました。私自身、海外のクラブには遊びに行くし、自分がプレイしにも行きます。日本でも、世界的なDJを呼んでパーティーを開催して、外国人旅行者の皆さんに楽しんでもらいたいと思いました」
―― なぜ、「新宿・歌舞伎町」だったのですか。
筒井さん「東京でクラブといえば、六本木や西麻布、渋谷周辺に集まっていて、歌舞伎町にクラブのイメージはありません。しかし多くの外国人から見ると、東京の夜、ネオンのイメージといえば、歌舞伎町です。新宿の宿泊者数は日本最大級ですし、宿泊施設からのアクセスも便利なので、新しいナイトライフの提案としても適している場所だと考えました」
―― 「ORIZURU」は、どのようなコンセプトなのですか。
筒井さん「クラブといえば、防音設備などの関係から地下にあることが多く、暗い、文字どおりアンダーグラウンドなイメージが強いですが、『ORIZURU』は歌舞伎町の真ん中のビルの5階にあります。空中階に展開した『折り鶴』をモチーフにしたハイグレードのデザイン空間は、デザイナーの秋葉達雄が担当しました。『ニューヨーク・タイムズ』の特集企画『アジアの次世代リーダーの30人』の一人にも選ばれた秋葉は、飲食店や企業の内装から、海外セレブの別荘や船舶のデザインまで手がけている経験豊富なクリエイターで、大人が楽しめるゴージャスで文化的なスペースをつくり上げました。
また、業界最高峰のサウンドシステムと世界屈指の映像作品を導入し、視覚的にも聴覚的にも新しい体験を演出しています」
秋葉達雄さん「我々が海外で見てきたものを融合させて、お互いの思いは譲らずに、最高のものをつくろうと考えました。最高の音へのこだわりと鏡を使った内装は相性が悪く、喧嘩しながらつくったので、他が真似しようとしても物理的に無理だと思うほどの仕上がりになっています。
じつは天井がガラス張りの上に、斜めに下がっているのも、床をカーペットにして音を吸収させているのも、結果的にいい音が出るようにするためなのです」
シャトルバスで六本木や渋谷のクラブをつなぐ
―― 他のクラブとは、どのように差別化しているのでしょうか。
筒井さん「食事の後に足を運びやすいよう、オープン時間を21時に設定しています。外国人旅行者はもちろんですが、国内の『昔はクラブに行っていたけれど、最近は行かなくなった』という30代~40代くらいの方々にも来てほしいからです。仕事帰りのビジネスパーソンにも、カラオケやキャバクラに変わるナイトライフの一つとしてご提案したいと考えました。
以前、ニューヨークのクラブに行ったときに、現地では30代や40代の大人のあいだにも、クラブDJやダンスパフォーマンス、アートなどが、とても受け入れられていると感じました。そのような文化を東京からも発信していきたいです。
平日は朝5時までですが、金曜と土曜は朝10時まで営業しています。渋谷や六本木のクラブとも、はしごできるようにするためです。主要なクラブには海外から世界的なアーティストたちが来てプレイしていることも多いので、そうした機会を逃さず楽しんでいただけるように、『ORIZURU』とそれらのクラブとをつなぐシャトルバスの運行も、(2019年)8月にも始まる予定です。
外国人観光客が夜も楽しく快適に遊べるような新サービスをご提供するとともに、国内向けにも、年齢やジェンダー、肩書きに関係なく、さまざまな年代の大人が良質の音楽を楽しみ、交流できる場所をご提供することで、ナイトライフの充実と活性化を目指しています。『ORIZURU』を楽しんでもらうことはもちろんですが、六本木や渋谷のクラブとの相乗効果で、『また、東京に来たい』と思ってくれればいいと考えています」
―― オープン後の反響はいかがでしょうか。
秋葉さん「『バー』と『クラブ』の中間というか、どちらでもない新しい空間を生み出したと思っています。ディスコはにぎやかに騒ぎたい方が集まるところ、クラブは大人が会話できる居心地のいい空間と考えれば、『ORIZURU』はクラブ寄りですが、それよりはもう少しライトに足を運べる場所。実際に感度のいい方々からは、いいリアクションをいただいています」
―― 今後の展望について教えてください。
筒井さん「音は、DJバーとしては日本一いいのではないかと自負しています。デザインや映像も含めて、他にはない体験を生んでいると好評をいただいています。今後はそういった認知を広げ、人気の店舗として確立していきたいと考えています。
また、平日は東京タワーと『ORIZURU』をシャトルバスで送迎した、パーティーと観光を組み合わせたナイトクルージングの提案も予定しています。さらに9月20日からは、ラグビーワールドカップが日本国内で開催されますので、その時に来られる外国人観光客の方々に、しっかりと情報発信して、集客のチャンスを生かしていきたいです」
筒井 亮(つつい・りょう)
東京でEDENやWEEKEND WARRIORZ、LIBREなど人気のパーティーを立ち上げてきたクラブクリエイター。2004年にはオーストラリアで初の海外出演を果たすとその後、インドネシア、タイ、マカオ、韓国などアジア各国へ積極的に進出を開始。RYO TSUTSUIというアーティストは、DJとして安易に音をカテゴライズすることを嫌い、あくまで自分の感覚を表現するうえで必要な音を鳴らすという姿勢を保ち続けていて、その繊細な感覚は人の心を揺さぶる豊かな魅力に溢れている。
秋葉 達雄(あきば・たつお)
単身、世界中を周り偉大な建築家にインスパイアを受け、独学にてデザイン業界に参戦「人間の心理」をデザインに取り組む手法で数々のVIPの心を掴んできた。LEDを用いた類まれなる色彩表現は「オトナエロティック」という新しいテイストを生みだした。
米国の名門紙「ニューヨーク・タイムズ」の特集企画「アジアの次世代リーダーの30人」にも選出される。