安倍晋三政権下で、さまざまな「働き方改革」が進められている。有給休暇の取得や残業時間の削減など、労働者の権利を守る政策が進められているものの、実態面では必ずしも労働者の肉体的・精神的負担は軽減されていないようだ。
厚生労働省が2109年6月28日に発表した2018年度の「過労死等の労災補償状況」によると、「精神障害」による労災請求件数は6年連続で過去最高を更新。「脳・心臓疾患」は4年連続の増加となった。特に危惧されるのは、女性の「精神障害」による労災請求件数が急増していることだ。
「医療・福祉」「30~40歳代」に多い精神障害
2018年度の「精神障害」による労災請求件数は、前年度比88件増加の1820件で、うち未遂を含む自殺件数は21件減少の200件だった。このうち、支給決定件数は41件減少の465件で、認定率は1.0%低下の31.8%。うち、未遂を含む「自殺」は22件減少の76件で、認定率は8.9%低下の38.2%だった。
「精神障害」を業種別にみると、労災請求件数では「医療、福祉」が320件で最も多く、次いで「製造業」の302件、「卸売業、小売業」の256件となっている。
支給決定件数 は「製造業」の82件が最多で、次いで「医療、福祉」の70件、「卸売業、小売業」の68件だった。
年齢別では、「40~49歳」が597件ともっとも多く、「30~39歳」が491件と、30~40歳台で全体の59.8% を占めている。
「精神障害」の支給決定件数を出来事別に見ると、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」と「(ひどい)嫌がらせ、 いじめ、または暴行を受けた」がともに69件でもっとも多かった。
非常に危惧されるのは、「女性」の「精神障害」が急増していることだ。女性の「脳・心臓疾患」での労災請求件数は、前年度と比べて2件減と横バイ圏だが、「精神障害」は前年度から99件増えて788件と、全体の43.3%を占めて大幅に増加している。
「精神障害」の年齢別では、40歳代と30歳代が多くなっているが、特に女性では40歳代と30歳代の合計が、前年度の計373件から2018年度は計459件と、86件も増加している。
この点について厚労省は、
「女性の雇用者数が、35~54歳層で大きく増加していることなども影響しているのではないか」
とコメントしているが、果たしてそうだろうか。
なぜ女性たちが病むのか、厚労省は調査したのか!
「精神障害」の業種別では、「医療、福祉」が最多。医療や福祉は、女性が中心の業種だ。そして、出来事別では「仕事内容・仕事量の変化」「嫌がらせ、いじめ、暴行」が多い。
厚労省は「働く人が増えたから」と単純に割り切るのではなく、「医療・福祉」で働く女性に「精神障害」が増えているのはなぜなのか、その因果関係について調査をするべきだろう。
なお、「脳・心臓疾患」による労災請求件数は、前年度比37件増の877件。支給決定件数は15件減の238件だった。
支給決定件数の割合(認定率)は、前年度より3.6%低下の34.5%。そのうち、死亡は請求件数が前年度比13件増の254件。支給決定件数は10件減の82件。認定率は前年度より1.2%低下の37.8%だった。
業種別では、労災請求件数は「運輸業、郵便業」が197件と最も多く、次いで「卸売業、小売業」の111件、「製造業」の105件となっている。支給決定件数も「運輸業、郵便業」が94件で最も多かった。
年齢別では「50~59歳」の297件が最多。次いで「60歳以上」の267件、「40~49歳」の246件の順となった。支給決定件数も「50~59歳」が88件で最も多く、次いで「40 ~49歳」の85件、「60歳以上」の41 件だった。(鷲尾香一)