「家庭教師のトライ」で知られるトライグループは、同社の特徴である個別指導の高度化を目指し、AI(人工知能)を使った新しい学力診断のシステムを開発したことを、このほど明らかにした。ごく短時間で生徒の学力や学習状況が把握でき、これまで以上にきめ細かな学習プランが可能になるという。
2019年8月から実証実験を重ね、20年4月から、まずは中高生を対象にサービスの提供を予定している。
1科目20問でわかる
新たに開発するAI教育サービスで生徒は、タブレット端末を使い1科目につき20問程度の質問に答える。回答は「A」「B」か「わからない」の三択。必要な時間は10分ほど。簡単なゲームやクイズのアプリのようだ。
生徒たちにとっては遊び感覚でできるが、正解を評価するものではないので、わからないのにAかBに賭けてはいけない。それが正解でも不正解でも、本人の「わからない」段階とは異なるので、実際の学力とは差がある結果になる可能性がある。正直な回答をすることでより精緻な診断を導くことができる。
従来の学力診断テストでは1科目200問必要で、回答には2~3時間を要する。それを数学、英語、国語、理科、社会と5科目実施すると、採点を経てプレースメントにまでかかる時間は膨大だ。というのも、従来の方式で学力を網羅的に測定しようとすると、学習単元ごとに問題を用意してそれぞれに対する理解度を測らなければならないから。
ところが、導入予定の「診断型」AI教育サービスでは、プロセスにかかる時間も問題数も10分の1に短縮、また、20問程度の試問で、これらの問題がカバーしていない学習単元についても、AIによる処理で、理解度が評価できるようになっている。
ソニーCSLなど出資のギリアと提携
トライは、AI教育サービスの開発で、AIなどにかかわるソフトウエアやシステム開発を行っているギリアと資本業務提携。同社は「ヒトとAIの共生環境の実現」をミッションに、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)などが出資して17年6月に設立された。1業種1社に絞って提携を進め統合AIプラットホームの開発を行っている。
一方、1987年に創業し「個別教育のパイオニア」を標ぼうするトライ。これまで、のべ120万人への個人指導を通じて蓄積したノウハウと、幅広い生徒層の学習データがあり、これをまずサービス開発に活用。その後の構築にあたっては、トライグループが持つテストの回答データ2万2000人分を集めプロトタイプ的なモデルを仕上げた。
8月からの実証実験では、家庭教師事業、個別教室事業などを通じて、全国で約7万人の中高生に試してもらうことで精度を高める計画。トライでは「100%の精度は困難。誤差は、現場での指導で補いたい」としている。
AIが生徒の回答をもとに「共進化」
AIを使った教育サービスはすでに先行モデルがあるが、ギリアと提携して開発したトライのモデルがセールスポイントとする最大の特徴は、英・数・国・理・社の5教科対応であることと、独特の解析手法を用いたことで、どのレベルの学力の生徒にも応じられること。
トライグループの物部晃之常務の説明によれば、既存のAIサービスはだいたい、学力の高い生徒を対象に数学などの論理系科目で利用されており、提供メニューも対象も幅広く設定されたトライのサービスは、教育を主眼とする同社ならではのものという。
「診断型」AI教育サービス開発には個別指導の高度化のほか、社会のさまざまなところで課題とされる少子化への対応が背景にある。少子化により進学や補習のための企業間では生き残り競争が激しくなることが予想され、競争相手との差別化が急務。また塾業界では個別指導への需要が高まっており、人材確保、有効活用のため、指導プロセスの合理化が欠かせなくなっている。
トライとギリアによる「診断型」AI教育サービスは、これを利用する生徒たちのつまずき傾向をAI側では評価を出すだけではなく、AI自身も自動的にデータベースを更新。最適な状態を保つ仕組みになっているという。「共進化的アダプティブラーニング方式」と呼ばれる新しいアプローチで、全国で多数の生徒を指導するトライの企業規模があって可能になったという。