中国で始まった「朝食革命」 経済成長がもたらした新しい「食」のあり方

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   急速な経済成長は、中国人の暮らしにさまざまな変化をもたらしている。

   「食」をめぐる変化も大きいようだ。その変化をビジネスチャンスと見て、中国の朝食市場に踏み込むカルビーの動きに、中国の知日派ジャーナリストとして著名な陳言氏は注目している。

  • 上海繁華街で開かれたフルグラのプロモーション。子供連れの若い夫婦の参加者が目立った
    上海繁華街で開かれたフルグラのプロモーション。子供連れの若い夫婦の参加者が目立った
  • 上海繁華街で開かれたフルグラのプロモーション。子供連れの若い夫婦の参加者が目立った

忙しい朝、何食べる?

   中国都市部での朝ごはんの様子をイメージできますか? 

   夫婦共稼ぎ世帯では、育児を手助けしてくれる祖父母がいない場合、「包子(パオズ)」と呼ばれる中国風蒸しパンやお粥を近くの店に買いに行ったり、前の晩の残り物で簡単にすませたりすることが少なくありません。

   中国では東洋医学の伝統的な考え方もあって、もともと朝ご飯を大切にしてきましたが、いまでは多くの親に時間的な余裕がなくなり、自分や子供の食事に手間をかける余裕がなくなってしまったため、朝食を食べない小中学生も珍しくはなくなってしまいました。

   カルビーはこの変化に目をつけました。「朝食革命」といううたい文句で、日本で売り上げが激増したシリアル「フルーツグラノーラ」(フルグラ)の中国での積極的なプロモーションを、最近始めたのです。

   同社が中国向け越境ECサイトで「フルグラ」の発売を始めたのは2017年。今では中国の小売り店舗や一般ECサイトでも売られていますが、その販路をさらに広げようという動きを強めました。

   2019年6月から展開している動画の宣伝はこんな内容です。

   若い夫婦と小学生の男の子の家庭。

   朝、父親は出張の用意をし、母親はその世話をしながら朝食の用意をなごやかな表情で進めている。そこに、彼女に携帯電話が......。

   険しそうな表情に一転した母親は「わかりました。すぐ会社に向かいます」と答える。 その様子を見ながら、子供が母親に「あわてないで。僕を見て」と笑いかけながら、フルグラにミルクをたっぷりかける。

   母親に微笑みが戻る――。

動画はこちら 日本Calbee麦片

   「忙しい朝にこそ、手軽に栄養のある一杯を」と呼びかけているようです。カルビーはやはり今年6月、上海中心部の名所「ラッフルズ・シティ」ショッピングモールでプロモーションイベントを催しました。

   タイトルは「朝食をおいしく食べて始まる味わいある暮らし」。始まってすぐに大勢の上海市民が訪れたことに、取材していた私自身少し驚いてしまいました。ミルクだけではなく、ヨーグルト、カレー、豆腐など、さまざまなものを混ぜて楽しむレシピの紹介。フルグラについて、講師の「わずかな時間で食べることができる一方、食物繊維や鉄分が便秘や貧血対策になり、摂取塩分も抑える」という説明に、毎朝忙しかったり、健康や美容面の関心を急速に高めていたりする上海人が興味深そうに聞き入っていました。

   カルビーは最大の消費地・上海に続き、広東省深センや、さらに内陸部の四川省成都などでもこれから販促活動に力を入れていく構えです。19年9月には、中高年消費者を意識して「糖質オフ」も投入するといいます。

「食」の分野で日中均質化?

フルグラのレシピの説明を聞く参加者たち
フルグラのレシピの説明を聞く参加者たち

   もともと、おいしいものに目がないのが中国人ですが、最近では単に「おいしさ」にとどまることなく、「食べ物が人のカラダや気持ち、ひいては生活や人生にどう影響するか」をもっと意識しようという論調が、メディアなどで目立つようになってきました。

   「食育」を専門科目として導入する中学校や小学校も、上海ではすでに現れてきています。いずれも経済成長がもたらしたゆとりの結果と言えます。

   日本政府が「食育基本法」を制定したのは2005年ですから、「食育」普及は日本が先輩格ですね。その目指すところは、仕事に追われて時間がないからといって一回の食事をおろそかにすることなく、カラダや心が喜ぶような食べ物を自分自身が選ぶことができるようにすることと、私は理解しています。

   「仕事を持つ女性たちの健康をサポートする」というコピーで「フルグラ」が発売されたのはもう20年近く前の1991年で、その売り上げに弾みがついたのはこの6~7年のことだといいます。

   ブレイクの背景に「食育」の浸透が関係しているのかどうか、私には何とも言えませんが、今回の販売促進のテコ入れをきっかけに、中国でもフルグラの売り上げがこれから順調に伸びていくなら、それは「食」をめぐる価値観や好みが日中間であっという間に似通ってきている、いわば均質化してきた表れと言ってよいでしょう。

   その意味でも私は今後の動きに大いに注目しています。


プロフィール 陳言(ちん・げん)
1960年北京生まれ。南京大学卒業。中国・経済日報社に入社後89年から2003年まで日本滞在。慶応義塾大学経済学研究科博士課程修了。慶応義塾大、萩国際大学(山口)で日本経済論などを講義。10年、北京で「日本企業(中国)研究院」を設立し、執行院長に。「環球網」「南方週末」など中国有力メディアや日本メディアに多数寄稿。19年1月、月刊「人民中国」副総編集長に。


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