アイウェアチェーンの「JINS(ジンズ)」を展開するジンズホールディングスが、慶應義塾大学医学部発のベンチャーと共同して、世界初となる近視抑制のためのメガネ型医療機器開発プロジェクトに乗り出す。
慶大発ベンチャー「坪田ラボ」が研究を続けている「バイオレットライト」を使ったもので、2023年をメドに「近視進行抑制メガネ型医療機器」の製造販売承認取得を目指している。ジンズの田中仁CEOと、坪田ラボの社長で慶大医学部眼科学教室の坪田一男教授が2019年8月7日、都内で発表した。
「バイオレットライト」を活用
バイオレットライトは太陽光に含まれ、ブルーライトより短く、紫外線より長い波長(360~400ナノメートル)を持つ紫色の光。屋内で使われる蛍光灯やLEDライトにはほとんど含まれていない。
国内外の研究により、室外で過ごす時間が長い人たちの間では近視の割合が低く、逆に、短い場合には高いことがわかり、慶大の眼科でその原因を調べたところ、バイオレットライトが関与しているとみられる結果が得られた。
坪田教授によると、確認のためヒヨコなどを使って、バイオレットライトを浴びる群と浴びない群に分けて研究したところ、バイオレットライトを浴びたほうの群で有意に近視進行が抑制されたことを確認。また、バイオレットライトを通すコンタクトレンズを装用している場合と、一部をカットするレンズ装用の場合の違いを、13~18歳についてのデータ解析をみると、前者の「通す」レンズ装用のほうが近視の進行が抑えられていた。
メガネの製造小売りにとどまらず、「アイウェア・プラットフォーム企業」を目指すジンズでは、このバイオレットライトに注目。「メガネの『視力補正』という根本的役割を『近視の進行そのものを抑制するソリューション』に変える」切り札的存在と判断。坪田ラボと共同して、管理医療機器の製造販売事業に本格参入することを決めた。
世界で深刻化する近視問題
共同プロジェクトで開発を目指しているのは、近視が進行しやすい6~12歳の小学生を対象としたメガネ型医療機器。フレーム内側にライトの照射口を搭載、屋外でのバイオレットライトの放射照度の範囲をもとにした量の光を受ける。ライトが直接視界には入らない設計で、外側からも照射はわからない構造になるという。自然な見た目で普通のメガネと変わらないデザインを目指す予定だ。フレームにはジンズの超軽量アイウェア「エアフレーム(Airframe)」のノウハウを活用するという。
今後は2019年を準備期間とし、20年から治験に取り組む計画。バイオレットライトについて「受けた」「受けない」の2群の経過観察などにより効果や安全性を証明するなどして、23年のうちに承認を取得する青写真を描いている。
坪田教授はプロジェクトの発表に際して、近視が近年、世界で深刻化していることを説明。また、近視による視覚障害リスク、失明リスクも上昇しているという。
「日本での失明の原因は、緑内障、糖尿病網膜症、網膜色色素変性と続くが、次は強度近視で、白内障より多い。中国では2番目の原因。世界をみても近視の人は増加傾向で、2050年には世界の半分が近視になる可能性を示した調査結果もある」という。
その原因として考えられるのは、屋内で過ごすことが長くなりバイオレットライトが不足したことだ。
坪田教授が示した資料によると、日本では子どもの戸外遊びの時間が以前に比べて激減。1955年に「男子3.2時間、女子2.3時間」だったものが、40年後の1995年には、男女合わせたデータで「37分」だった。
坪田教授は、近視をめぐる近年の状況に危機感を持ち新たに「近視予防フォーラム」を設立。ジンズも参画することにしている。
ジンズと坪田教授はこれまでにも「ブルーライト」に関して共同研究を実施。その成果として2011年に「JINS PC(現在はJINS SCREEN)」と名付けた「眼を守る」という付加価値を持ったアイウェアを発売し新市場を開拓した。
ジンズの田中CEOは、プロジェクト発表で「JINS PC」をしのぐような、新たなイノベーションを起こす決意を表明した。