究極のポピュリストか?
ボリスは、その時その時によって主張を変えることでも知られる。彼は英国のEU離脱派のリーダーであるが、最初から確固たる信念を持っていたわけではなかった。2016年に当時のキャメロン首相がEU離脱の国民投票実施を決断した時、ボリスはどちらにつくか決めかねていた。デイリー・テレグラフ紙にEUに「とどまるべき」というのと「離脱すべき」という二種類の論考を書いて準備していたほど。結局、離脱派に入ることになり、彼は赤い大きなバスに乗って「反EU」の遊説をして各地を回った。
バスの側面には「英国は1週間に3億5000万ポンドをEUに払わされている」と大きく書かれていた。これはまったく根拠のない「盛った」数字であったが、こういうデタラメが離脱派の票を増やすのに役立ったことは否定できない。
結局、EU離脱派が国民全体の52%の票を獲得して、英国がEU離脱にかじを切ることになった。
このようにボリスは、よく言えば人々の心をつかむのに長けていて、機を見るに敏な政治家である。しかし一方で信念がなく、次々に出まかせを言って、その場を取り繕ういい加減な政治家であるとも言える。
ともあれ、彼は運も味方につけてジャーナリスト、ロンドン市長、下院議員、外務大臣を経て、ついに英国首相の座を射止めた。
新首相の最大の使命は10月31日を期限とするEU離脱、通称ブレグジット(Brexit)を乗り切ることだ。英国がEUから離脱するというのは恐ろしく大きく複雑な話であり、政治的にも経済的にも広範な影響を及ぼす。ふつうに考えると、あと3か月を切った状況で、十全の準備をすることは不可能だと考えられるところだ。そのため、「もう一度、国民投票を行うべきだ」と言った声さえ聞こえてくる。
しかし、ボリスは至って楽観的で「何が起きようとも」「ドゥー・オア・ダイ(やるかそうでなければ死ぬか)の決意で」「キャンドゥー(やればできる)の精神で」乗り越えられる、としている。
「みんな悲観的過ぎる」といった発言もしている。これで英国民の多くが何となく大丈夫ではないかという気になったとすれば、それこそ彼のポピュリストとしての本領発揮ということだろう。
ただし、それとEU離脱がうまく行くかどうかとは、まったく別問題である。(小田切尚登)