通勤するビジネスパーソンらを見て、就職活動の学生らを見て、そのスーツの着こなしがあまりに「ダサい」のだという。
本書「世界で闘うためのスーツ戦略」の著者、井本拓海さんは筋金入りのスーツ愛好家。目の当たりにしたスーツをめぐる状況に居ても立っても居られなくなり、正しいスーツ道の伝道に立ち上がった。
「世界で闘うためのスーツ戦略」(井本拓海著)星海社
あきれた「日本人のデフォルト」
著者の井本拓海さんは1983年生まれの今年36歳。25歳の時から、政府機関から委託を受けた途上国支援など国際協力事業に従事している。世界各地を飛び回り、さまざまな国の人たちと業務をともにするうちに、「なぜスーツを着るのか」と考えるようになり、その大切さがわかるようになったという。
もともとは服装を気にする方ではなく、学生時代の就活で気を付けていたことといえば、スーツのボタンをすべて留めて、ズボンをちゃんと上げてはくということだけだった。スーツ愛好家となったいまでも、ブランドものや高級品を身に着けるようにしているわけではない。
だから「いいスーツを着る」ことを評価の対象にしているのではない。国際的ビジネスの舞台ではスーツをめぐってルールがあり、そのルールに従いワードローブをそろえ、TPOに合わせて着こなすことが大事、と主張する。それでこそビジネスパートナーから信頼が得られるのだという。こだわりは「ブランド」だけということでは、仕事も決してうまくいかない。
著者によれば、ビジネスシーンの「日本人のデフォルト」は、まったくのルール無視。シワが寄った黒のスーツと白のボタンダウンシャツ、ネクタイは判で押したようにストライプ、ベルトには劣化か手入れ不足かヒビが入り、革靴には汚れが見える。「この装いが『正しい着こなし』と思って疑わない」。スーツの正しい着こなしを知っている世界のビジネスマンからみれば「恥の塊以外の何物でもない」。「この『恥』をぶら下げた姿で『日本の製品は他国の製品より優れている』などと周辺国に語るのは、たとえ真実だとしても、その姿は滑稽すぎる」と、激しい言葉でデフォルト族に反省を迫るのだ。
本書で述べられている著者自身の気配りは相当なものだから、無頓着な装いは余計に目立って見えてしまうようだ。
クール・ビズはドレスコード違反
デフォルト族らに向けてはまず「スーツのルール」をプレゼンテーション。ジャケットやズボンなどパーツ別に列挙して、無頓着からの改心を促す。なかには、トリビア的なこともリストアップされ、無頓着な人にはそこまでは無理じゃないかと余計な心配をしてしまう。
たとえば、ジャケットのポケットについているフラップ。ほこりが入りやすい屋外では出してポケットをカバーするようにし、室内ではポケットのなかに隠すように――という「迷信のような話がある」。いわばポケットのふた。だから、室内でだれかと打ち合わせなどをしている際にフラップを出したままだと、相手に礼を失したことになりかねないのだという。「一番簡単な解決策は、『常時フラップは隠しておく』ということになる」そうだ。
この夏、日本は猛暑に見舞われているが、スーツやネクタイ無用の「クールビズ」について著者は、「とんでもないこと」と切り捨てる。
「暑いからネクタイを取るとか半袖のシャツを着るという態度は、ひどく自己中心的だ。半袖のシャツがビジネスシーンでも使えるとか、半袖シャツにネクタイを締めれば礼を欠かさないとされているのは日本"だけ"の常識であって、世界的に見ればそんなドレスコードは存在しない。着用者の快・不快だけを基準にして、本来必要なものを省いてしまっている。明らかなルール違反で、礼を欠いている」
著者は、ジャケットをトロピカル生地やサッカー生地製の夏用にし、リネンのシャツにニットタイという「非常に成熟した大人の着こなし」を提案する。今年の猛暑の間は、現実的とは思えないが......。
自らがモデル務めコーディネート集
本書の後半では、実践的なアイテムのそろえ方を紹介。オススメのスタイルは、スーツ、シャツ、ネクタイ、ソックス、シューズを合わせて7万円以下で賄える。「いうだけではすまさない」と、自らがモデルを務めたコーディネート写真も特集していて、アイテムの説明や価格も示されているので参考になる。
先に触れた「フラップ」について、外と室内での扱いの違いが「迷信」と紹介されたように、ルールなどの説明で、伝統を強調しているのに、その根拠を示すことなく断言されていることが少なくない。クールビズのパートでは、半袖シャツNGの理由もよくわからない。ハワイのアロハシャツなどはどう考えればいいのか。そうした疑問は浮かんだが、経験から修めたスーツ道は、着こなしや着回しの参考になる。
「世界で闘うためのスーツ戦略」
井本拓海著
星海社
税別960円