「専業主婦も共働き女性も、どちらにも引け目がある」
――今回の投稿と回答者のそれぞれの反応を読み、率直にどのような感想を持ちましたか。
川上敬太郎さん「中1の娘さんと言えば、反抗期や思春期を迎える難しい年ごろです。そんな娘さんとのコミュニケーションのあり方の話と、専業主婦に対するイメージの話は、分けて考えた方がよいのではないかと感じました」
――なるほど。娘は娘、母親は母親というわけですね。ところで最近、ネット上でも専業主婦のことを「絶滅危惧種」と呼ぶ人さえいます。投稿者の心情の背景には「専業主婦」であることに対する後ろめたさというか、コンプレックスのようなものがあり、娘のひと言がグサリと刺さった印象がありますが。
川上さん「コンプレックスは、専業主婦の人も、共働き女性の人も、どちらにも持ってしまうことがあるようです。専業主婦の場合は、働いて収入を得ていないことに対する後ろめたさや罪悪感を覚えるケース、共働き女性の場合は、生活のために働かなければならない境遇を卑下してしまうケースなどです。一方で、それぞれの道を自ら望んで選択した人の場合は、まったくコンプレックスを感じていない傾向がみられます」
「しゅふJOB総研では、専業主婦の後ろめたさや罪悪感に関する調査を行ったことがあります。半数以上の人が何らかの引け目を感じていました。年代が高くなるにつれ、引け目が少なくなりますが、30代では7割、40代では6割と、若くなるほど引け目を感じる傾向が強くなります。現在は共働き世帯が多数派ですが、かつては専業主婦が多数派でしたから、異なる時代の価値観が混在している現状があります」
――どういう時に「うしろめたさ」を感じるのでしょうか。
川上さん「アンケートを見ると、こんな答えが多かったです。『子どもが小学校に上がった時、想像以上に共稼ぎの人が多く、親しくなった時に、夢の専業主婦だねと言われた。また、毎日何しているの?と詮索されることも嫌だった』とか、『子育てや家事、地域の活動など、それなりに忙しくしていたが、収入がないことに常に後ろめたさを感じていた。何かを買う時、子どものことであっても、必ず夫に聞かなくては悪いと思う』といった回答です」
「ただ、今回大切にしたいのは、投稿者が専業主婦であることに自信と誇りを持っている点です。そのことは尊重されるべきだと思います。社会で生きていくためには、収入を得るための『稼ぎ』が必要です。一方で、家庭を切り盛りしたり居住地域の中で協力し合ったりする『務め』も必要です。稼ぎと務めは、どちらも社会生活に欠かせないものです。家族の中で、稼ぎと務めをだれがどういうバランスで担うかは、家庭ごとに違ってよいはずです。投稿者が専業主婦として『務め』を専任で担い、それによって家庭が円満に回っているのであれば、他人にそのことを批判する権利はないはずです」
「投稿者が学校に対して疑問を持ったのは、専業主婦という役割の重要性を学校がきちんと伝えてくれていないのではないか、と感じたからかもしれません。あるいは、じつは心の奥底で専業主婦であることに後ろめたさを感じてしまっている裏返しの可能性もありますが......。今回の投稿を見る限りでは、どちらの可能性もあると感じます」