「かわいい」が見えた
著者らが挑んだ「コンピュータにかわいいを学習させた」のは、大手アパレル企業の依頼によるもの。服について女性の顧客は年齢を問わず「かわいい」を求めており、ブランド戦略構築のうえでは極めて重要なファクターだ。これを数値化、可視化できれば戦略をより高度化できる。それが企業側の狙い。しかし「かわいい」は「究極の感覚的表現」。その数値化、可視化は「おそらく世界を見渡してもだれも手がけたことがない難問」だ。
素材のデータは依頼主の企業に蓄積されていた3万5000点にのぼる服の画像。服飾系専門学校の学生たちに協力を求め、「かわいい」ばかりではなく「ガーリー」「フェミニン」などのイメージ、そして色や形状、さらに「とろみ」「もこもこ」など9分類、150項目にわたるタグ付けを実施。ほかにも素材などによるタグ付けを行い、製品の評価値を求められるようにした。
これら製品側のデータと、顧客の購入データを突き合わせると、優良顧客が買っているコアな商品群の傾向と、全体の商品群との間にズレがあることが判明。その傾向の違いから、より強調すべき、あるいはより抑制すべきラインが見えきた。こうした可視化によって、今季の販売実績から売れなかった製品のタグを手がかりに来季のラインアップを調整することで消化率を改善し収益性が向上。ラインアップの調整は、それまで現場の勘に頼ることしかなかった。ビッグデータ分析やAIを活用した感性分析のシステムが構築でき、商品づくりが根本的に変わった。
ビッグデータやAIを利用する機運は、確かに高まっている。本書では、アパレル企業の「かわいい」のほか、働き方改革に伴う業務の平準化を成功させた例や、データをつなぎ合わせることで10時間の作業を10分間に短縮した例などを報告。企業の経営変革、ビジネス現場の利益改善や市場開拓に参考になることは間違いない。
「コンピュータにかわいいを学習させたら何起きたか だれも教えてくれなかったビッグデータ分析のノウハウ」
遠山功著
ダイヤモンド社
税別1500円