途上国経済を破壊しかねない「リブラ」
では、「リブラ」の何が問題なのでしょう――。
世界中では、銀行口座が持てない人たちが20億人弱いると言われています。「リブラ」を使うことで、こうした人たちも資金決済のシステムに入ることができるようになります。それは素晴らしいことだと思います。
「リブラ」の宣伝を見ると、いかにもそのような雰囲気のビデオが流れます。
しかし、開発途上国で「リブラ」を購入した人の資金は、ドルやユーロ、円といった先進国の通貨に分散預金されます。つまり、途上国から先進国への資金流出です。
自国通貨より「リブラ」のほうが、信用度が高いと考える人も出てくるでしょう。より多くの資金が途上国の銀行システムをすり抜け、先進国に流れることになります。途上国の銀行システムは重大な危機にさらされ、途上国政府は徴税に困難をきたし、資金調達もままならなくなります。通貨は減価し、インフレが止まらなくなるでしょう。途上国の人々に利便性を与えるための「リブラ」が、結果的に途上国経済を破壊しかねないのです。
日本も安心できません。アベノミクスはインフレ政策ですが(実現はできていませんが)、本当にインフレになると考える人が増えると、「リブラ」購入はかんたんなインフレヘッジになります。これは他の国も同様で、インフレ政策が取り難くなります。
旅行の際に持ち出せる現金の金額が決まっているように、多かれ少なかれ、何らかの為替管理をすることで多くの国の経済が成り立っています。中国や韓国は、未だに発展途上国の様な厳格な為替管理を徹底しています。「リブラ」が誕生すると、簡単にこうした管理をすり抜けることができるので、規制したいと思う国は多いでしょう。