「日韓経済戦争」は日本の輸出規制強化措置からひと月たったが、いっこうに出口が見えない膠着状態に入った。そんななか、日本のメディアはほとんど報じないが、韓国紙が大々的に取り上げる動きがある。
日本の知識人らによる安倍晋三首相批判の動きだ。韓国メディアから見ると、日本メディアは韓国批判一色に映るらしく、「アンチ安倍」の動きはまたとない韓国エールにみえるようだ。韓国紙に登場する代表的な動きを見ると――。
宇都宮健児・元日弁連会長が韓国紙へ寄稿した内容
日本批判の急先鋒ハンギョレ(2019年7月22日付)は「寄稿:徴用工問題の解決に向けて宇都宮健児・元日本弁護士連合会会長『国家間協定で個人請求権が消滅しないのは国際法における常識』」という見出しで、宇都宮氏の長文の寄稿を掲載した。
宇都宮氏は人権派弁護士としても知られ、自分が会長だった2012年12月に、日本弁護士連合会と大韓弁護士協会との間で、元慰安婦や強制動員された人々の救済のための共同宣言をまとめている。
左派系メディアとして、孤立無援状態で反日報道を続けているハンギョレにとって、宇都宮氏の寄稿はまたとない援軍のようだ。寄稿の最後に、かなり長文の日韓両弁護士団体による「共同宣言」まで付け加える力の入れようだ。
宇都宮氏は、元徴用工などの個人の損害賠償請求権を国家間の協定によって消滅させることができないことは、今や国際人権法上の常識となっており、実際、これまでも日本政府や日本の最高裁判所でも認めてきたとして、次の例を挙げた。
「1991年8月27日の参議院予算委員会において、外務省の柳井俊二条約局長(当時)は、『日韓請求権協定において両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけだが、その意味するところは、日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したということだ。したがって、個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではない』と答弁している」
「また、日本の最高裁判所は2007年4月27日、中国人強制連行の被害者が日本企業の西松建設に賠償を求めた判決で、中国との間の賠償関係等について外交保護権は放棄されたが、被害者個人の賠償請求権については、『請求権を実態的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する機能を失わせるにとどまる』と判断している。この判決の後、勝訴した西松建設は強制連行被害者との和解に応じている」
判決では、中国人元労働者の請求は棄却したものの、「西松建設が強制労働に従事させて利益を受けていたことにかんがみ、同社ら関係者が救済に向けた努力をすることが期待される」という見解を付けた。だから、その後、西松建設は労働者に謝罪するとともに、記念碑を建設。同時に労働者に和解金を支払うことに同意した。
同じ強制連行でも、中国人労働者と韓国人労働者の対応が違うのは、ダブルスタンダードではないかというわけだ。そして、こう結んでいる。
「新日鉄住金をはじめとする日本企業は、被害者全体の解決に向けて踏み出すべきである。それは国際的信頼を勝ち得て、長期的に見れば企業価値を高めることにもつながる。また、日本の経済界全体としてもこのような取り組みを支援することが期待される。日本政府は日韓請求権協定を持ち出して、日本企業の自発的な解決に向けての取り組みを抑制するのではなく、真の解決に向けた取り組みを支援すべきである」
知識人77人「東京五輪前に隣国と紛争を起こすとは」
中央日報(7月29日付)の「『対韓規制撤回せよ』日本の知識人77人の叫び」は、日本で始まった学者、弁護士、ジャーナリストら77人によるインターネットを通じた「輸出規制撤回要求署名運動」を紹介している=画像(上)参照。
「和田春樹東京大学名誉教授、内田雅敏弁護士、岡田充共同通信客員論説委員、田中宏一橋大学名誉教授など教授、弁護士、ジャーナリスト、元外交官、医師、作家ら77人はインターネットサイトで、7月25日から8月15日を第一次締め切りとして輸出規制撤回要求署名運動を進めている」
「彼らは、『韓国は敵なのか』という題名の声明で、『昨今の日韓関係の悪化を憂慮する有志が執筆し、日本の市民に賛同を求めるもの』とし、『半導体製造が韓国経済にとってもつ重要な意義を思えば、この措置が韓国経済に致命的な打撃をあたえかねない、敵対的な行為であることは明らか』と強調した」
「韓国は敵なのか」という声明を読むと、安倍首相が最初から韓国を「敵」として狙い撃ちにしていると、厳しく批判している。安倍首相は今年初めの国会施政方針演説では、中国、ロシアばかりか、北朝鮮とさえ関係改善を訴えたのに、日韓関係についてはひと言も触れなかった。そればかりか、主要20か国(G20)首脳会議でも文在寅(ムン・ジェイン)大統領だけを無視して、「韓国相手にせず」の姿勢を明らかにしてきたという。
そして、こう諭すのだった。
「特別な歴史的過去をもつ日本と韓国の場合は、対立するにしても、特別慎重な配慮が必要になります。それは、かつて日本がこの国を侵略し、植民地支配をした歴史があるからです。日本の圧力に『屈した』と見られれば、いかなる政権も、国民から見放されます。日本の報復が韓国の報復を招けば、その連鎖反応の結果は泥沼です。両国のナショナリズムは、しばらくの間、収拾がつかなくなる可能性があります。このような事態に陥ることは、絶対に避けなければなりません」
しかも、来年は東京五輪・パラリンピックを迎える大事な年でないかと指摘する。
「普通なら、周辺でごたごたが起きてほしくないと考えるのが主催国でしょう。それが、主催国自身が周辺と摩擦を引き起こしてどうするのでしょうか。問題の解決には、感情的ではなく、冷静で合理的な対話以外にありえないのです」
韓国紙が示す安倍首相の強硬姿勢への意外な「理解」
ところで、韓国紙の中には逆に安倍首相に「理解」を示す論調も少なくない。たとえば、中央日報(7月31日付)「コラム:韓日『経済戦争』究極的目的は何か」では、安倍首相の頑なな姿勢の「理由」をこう説明している。
「日本政府は、植民支配の違法性を認め被害者に賠償しろという韓国政府の要求は受け入れ難いという。植民支配の違法性を認めたこともなく賠償したこともない英国、フランス、ドイツ、スペインなど国際社会の非難を受けかねない。植民支配の被害を賠償し始めれば、韓国だけでなく、台湾、フィリピン、ベトナム、ミャンマーなど他の国の被害者にも賠償しなければならない。賠償金額を支払いきれず、政府与党の再執権の可能性も大きく落ちるためだ」
そして、同じ中央日報(7月29日付)の「リセットコレア:輸出制限に込められた安倍首相の狙い」は、欧州各国や東南アジア諸国よりも「厄介な」あの国に言及している。
「韓国の徴用被害者に賠償する場合、同じ請求が過去の支配地域で相次いで提起され、北朝鮮との国交正常化にも賠償金が増大する可能性が高い」
(福田和郎)