「クルマがないと生活できない」高齢者の存在
クルマによる高齢者の交通事故を減らそうと、免許更新時の講習や認知機能検査のほか、運転免許証の自主返納(申請による免許取消)が進められていることは、よく知られているところ。2019年4月の池袋での高齢男性の暴走事故で12人の死傷者が出た事件後は、確かに運転免許証の自主返納が増加した。
とはいえ、調査資料によると2018年に運転免許を自主返納したのは42.1万人で、75歳以上は免許保有者の5%程度にとどまる。
免許を自主返納した際に発行される運転経歴証明書は、正式な身分証明書として使用できるほか、全国の自治体では、この証明書での公共交通機関の運賃の割引利用や、協賛する企業との施設の利用料金や商品、サービスの割引が受けられるようになっている。それでも、運転免許証の自主返納が急激に増加する兆しはない。
運転免許証の自主返納の話題が出るたびに、「クルマがないと生活できない高齢者がいる」ことが取り上げられ、一概に高齢者がクルマを運転することを禁止することはできないという結論めいた話になる。
確かに、75歳以上の高齢者の運転免許証の自主返納率は、東京都が8.0%で最高で、茨城県が3.7%で最低だ。さまざまな理由からクルマの運転をやめられない高齢者も多くいるのだろう。
そのうえ、クルマの運転をやめて、たとえば徒歩や自転車での外出に切り替えたとしても、高齢者にとってクルマを運転することよりも安全かと言えば、そうではない。
歩行者や自転車運転中の65歳以上の高齢者の死亡事故は、高齢者以外の死亡事故のおおよそ倍に上る。高齢者にとっては、運転免許の自主返納は結果的に、自分を危険にさらす交通手段を選択することにもなりかねない。
それでも、高齢者の運転が他人をも巻き込む大きな事故を引き起こすケースが増加しているのだから、何らかの対策を取らなければならないのだろう。しかし、対処療法的な対策ではなく、国を挙げて、高齢者が生活に困らない街づくりから考えていく必要があるのではないだろうか。(鷲尾香一)