トヨタも参入した「サブスク」ビジネス...... すでにバージョン2.0に進化(気になるビジネス本)

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   「サブスクリプション(サブスク)」モデルが、モノの売り方、買い方の新トレンドとして浸透してきている。

   定額制あるいは従量制で月額料金を支払って製品やサービスを利用するものだ。金を貯めて購入し「所有」の満足感を味わうものだったブランド物や自動車も、月々の「会費」で「使う」ことを楽しむことが現代のライフスタイルになっており市場が構成されているという。

   その広がりに、メーカーも参入するなど、サブスクは新段階に入っている。

「サブスクリプション2.0 衣食住すべてを飲み込む最新ビジネスモデル」(日経クロストレンド編)日経BP
  • 「KINTO」のサービス事業を行う新会社設立の記者会見。トヨタ自動車がクルマのサブスク事業に乗り出す
    「KINTO」のサービス事業を行う新会社設立の記者会見。トヨタ自動車がクルマのサブスク事業に乗り出す
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聴き放題・見放題がリード サブスク市場、2018年に349億円

   サブスクリプションは元々、新聞や雑誌などの「定期購読」の意味。日本では新聞の定期購読といっても月末にその月の料金を払うことが多いから、新トレンドの「サブスク」とは結びつかないかもしれない。だが、一定期間の料金を先払いして利用するサービスは、住まいの賃貸借や公共の交通機関の定期券など、サービスを受ける形態としては昔から存在していた。

   本書「サブスクリプション2.0 衣食住すべてを飲み込む最新ビジネスモデル」(日経BP)によれば、近年「サブスク」という言葉の内容をはっきりさせたのは、音楽・映像作品の定額聴き放題・見放題サービスの登場だ。「Spotify(スポティファイ)」や「Netflix (ネットフリックス)」は、若者らを中心に歓迎され、またたく間に広がった。音楽のサブスク市場をみると、2018年の市場規模は349億円と5年前の11.3倍に拡大。ポップカルチャーを対象にした消費スタイルの移行が、現代のサブスクモデル拡大を加速したのだ。

   NetflixやSpotifyがリード役となり「買う」ことから「利用する」ことに、消費がシフトしていることに合わせて、近年、新しいサブスクビジネスが続々登場。トヨタ自動車やパナソニックといった大企業のメーカーも乗り遅れまいと名乗りを上げている。

   そうした新しいサブスク状況を本書では「バージョン2.0」として、衣・食・住などのカテゴリー別に24社の実例を紹介。なかには「2.0」に達することができず撤退した例や、倒産目前からサブスク事業で活路を開いた例もあり、その内容は多彩だ。

平均継続率95%で高LTV

   現代の「サブスク」ビジネスを象徴するような存在が、ラクサス・テクノロジーズ(広島市)が展開する「ラクサス」。月額6800円で、エルメス、ルイ・ヴィトン、プラダ、グッチなど高級ブランドのバッグを借り放題できるサービスを提供している。使いたいバッグは返却せずに利用し続けられる。別のバッグが使いたくなったらスマートフォンのアプリで手続きして返却のうえ、新しいものを予約。往復の送料はかからない。アプリ利用者は約25万人、そのうち1万8000人が有料会員。

   高級バッグのサブスク事業のメリットは「顧客生涯価値」と訳される「LTV(ライフタイムバリュー)」が高いことという。LTVは「顧客一人ひとりが取引期間を通じて企業にもたらすトータルの価値」であり、継続利用者が増えるほど積み上げ方式にでき、しかも安定した収入につながり収支の計画が立てやすい。ラクサスのサービスの平均継続率は95%を誇る。

   高い継続率キープのため、ラクサスではサービス向上を怠らないようテクノロジーを駆使。アプリ利用者に定期的に風景の画像を示して好き嫌いを尋ね、回答データと利用履歴をAI(人工知能)に学習させて、その利用者の好みそうなバッグを優先的に表示するようにしているほか、ブランド店の位置情報データベースを使い、ラクサスのアプリ使用者の、それらの店舗への訪問情報を参考にアプリのトップ画面の商品を並び替えなども行っている。

   また、クレーマーやバッグの使い方が荒い顧客には厳しい措置を取っていることもサービスの信頼度をあげてる。「言葉使いが汚い」クレーマーは即アウト、バッグの使用前後の状態の写真をAIで判定し、傷や汚れがひどい場合も同様だ。サービス開始当初、修繕費などを見込んで月額料金は2万9800円に設定していたが、マナーの悪い客の付けまわしを優良顧客に負わせられないと料金を見直した。

トヨタの「KINTO」利用者負担は駐車場と燃料費だけ

   「ラクサス」がサブスクビジネスの象徴的存在である一方、このビジネスの認知度を一気に高めたのがトヨタ自動車だろう。若者のクルマ離れがいわれるようになり、シェアリングのカルチャーが拡大。海外市場では競争の激化や貿易体制の見直しなどもあり頭打ち傾向だ。トヨタはこうした状況の変化に対応して「モビリティーカンパニー」に向かうことを打ち出している。「サブスク」サービスの開始はその足掛かりの一つとされる。

   トヨタの新サブスクサービスは「KINTO(キント)」と名付けられ、2019年2月から東京で始められた。同社の新車が月額料金で乗れる。全国展開も視野に入れている。サービス名の由来は、孫悟空の「きん斗雲」。必要なときにすぐ乗れ、思うままに移動できる――というわけだ。

   サービスメニューは2種類。プリウスやアルファードなど5車種から選べる「KINTO ONE」と高級車レクサス専用の「KINTO SELECT」。料金はグレードやオプションにより異なるがプリウスだと、月額4万9788円~5万9832円になる。料金設定はコストを積み上げて算出され、対人・対物無制限の任意保険や自動車税、登録諸費用が含まれる。利用者は駐車場と燃料費だけを負担する。

   メーカーのサブスク事業は、本業といえる「販売」と競合する。トヨタとしては、購入以外の選択肢を用意し、クルマ離れが進む若年層などとクルマあるいはトヨタとの接点にしようとあえてサブスク参入を打ち出したという。

   だが、サブスク事業専用の契約・納車・修理・メンテナンスのラインはなく、それらを担うのは販売店。「つまり、販売店なくして成り立たないビジネス。果たして販売店側がしっかり協力し、力を注ぐ体制はできているのか」と、本書は不安な点を指摘。本書の「撤退の研究」のパートで触れているように、本業の販売品をサブスク事業化して失敗。すでに撤退した例がある。

   「先が見えない大海に漕ぎ出し始めた」とされるトヨタ。「サブスク」ビジネスの行きつく先が注目される。

「サブスクリプション2.0 衣食住すべてを飲み込む最新ビジネスモデル」
日経クロストレンド編
日経BP
税別1600円

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