「ウチの経営者は常識を外れている」芸人にそう思わせた吉本興業の時代錯誤な「親子」関係(大関暁夫)

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   お笑い芸人の「闇営業」問題が巷を賑わせています。

   いろいろと新たな展開に入り混乱を極めていますが、ここでは企業経営の観点から、一企業としての吉本興業の立ち振る舞いについて考えてみたいと思います。

  • 所属芸人の「闇営業」問題で記者会見を開いた吉本興業の岡本昭彦社長(2019年7月22日撮影)
    所属芸人の「闇営業」問題で記者会見を開いた吉本興業の岡本昭彦社長(2019年7月22日撮影)
  • 所属芸人の「闇営業」問題で記者会見を開いた吉本興業の岡本昭彦社長(2019年7月22日撮影)

吉本芸人のギャラは安い!?

   問題になっている「闇営業」とは、所属事務所を通さずに仕事とその報酬を受けることで、基本的にはルール違反とされる行為です。ただし、今回問題視されたのは「闇営業」そのものではなく、「闇営業」で仕事と報酬を受けた先が反社会的勢力であったという点です。

   コンプライアンスを重視する昨今の風潮から当然、社会的批判は免れないものであり、該当する芸人たちの謹慎処分そのものは至極妥当な処分であったとは思います。

   しかし、所属事務所の会社経営の観点から問題がなかったのかと言えば、そこには疑問が残るところかと思います。今回、反社会的勢力に対する「闇営業」で謹慎処分を受けた芸人の大半は、吉本興業の所属でした。吉本興業といえば、関西を地盤としながらもお笑い業界では圧倒的な勢力を持つ業界最大手であり、テレビでその所属芸人を見ない日はないと言っていいほどの存在感を誇っています。

   コンプライアンス教育も定期的に行ない、「闇営業」がなぜいけないのか等々についてもしっかり徹底していた、と会社側は話しています。それなのに、なぜ今回のような事件が起きてしまうのでしょうか。

   吉本興業の所属芸人のあいだで言われているのは、そのギャラの安さです。テレビなどで頻繁に見かけるような売れっ子芸人や一部の大物を除いては、アルバイトをしないと食べていけない、という現実があるようです。

   その原因は、事務所と芸人のギャラの取り分です。正確な比率は芸人にも公表されてはいないものの、7割~9割が事務所の取り分と言われ、他の事務所のそれとは大きな開きがあるのだと。この状況下では、「闇営業」が吉本芸人たちのアルバイトと同等に位置する文化が根付いていたとしても、まったく不思議ではないと思います。

   「闇営業」は事務所に取り分を持っていかれない100%自分の収入になる「割のいいバイト」なわけですから、それが魅力的に写るのはあたり前の話であるように思えます。

経営者に都合のいい、キレイ事でしかない

   今回の件に関連して、さまざまな情報が報道され、吉本芸人はギャラが安いのではないか、今回の事件は吉本興業のギャラの安さが原因なのではないか、という世間の批判も噴出しています。

   しかし、吉本興業の大﨑洋会長はインタビューに答えて、これには明確に反論しています。

「若手芸人たちが、先輩芸人の名前で集まった多くのお客の前で芸を見せるだけでも意味があること。自分の名前で来た客がいなくとも、プロとして舞台に立ったからギャラを渡しているわけで、世間で言われる吉本興業はギャラが安いとか、交通費を差し引いたら赤字とかいう批判にはあたらない。今回の件についても、会社側に落ち度はない」

   会長の言っている話は、企業経営者として正しい理解なのでしょうか――。一見すると、もっともらしい話にも聞こえますが、私には経営者都合のキレイ事にしか思えません。

   丁稚奉公的な観点や、職人の世界という旧時代的理解からは納得性もあるのかもしれませんが、業界を代表する企業経営者の考え方としては、大きく常識に欠けていると私は思います。

   この場合の常識とは、ひとつは業界水準を意識するということであり、さらには吉本興業について言うなら、業界をけん引する立場としてのあるべきを認識する、ということでしょう。

   組織そのものや上に立つ人の考え方や指示・命令が、常識を外れたまままかり通ってしまうと何が起こるのかと言えば、その常識外れを受け入れさせられる配下の者が理不尽という感覚を覚えることになるのです。

   そしてその理不尽を感じた者は、彼自身も常識を逸脱することへの抵抗感が薄れ、それが組織内に蔓延すれば結果的に企業のルールやコンプライアンスはことごとく破られることにつながるでしょう。

会社が理不尽なんだから「闇営業」程度は問題ない?

   今回の吉本興業の問題は、「同業他社に比べたギャラの安さ」「業界常識を逸脱した会社と芸人の取り分比率」といったことの積み重ねが、芸人から見て「ウチの会社、ウチの経営者は常識を外れている」と考え、理不尽を感じるようになります。

   そんな状況下でルール違反の「闇営業」案件が来たとしても、会社も平気で理不尽をしているのだから所属芸人の自分が「闇営業」程度の理不尽をしたって問題なかろう、そもそも会社の理不尽が原因なのだから、と思っても不思議はないのです。

   本件で芸人たちに、相手が反社会的勢力かもしれないという「闇営業」リスクに対する意識はあったかもしれませんが、すべては会社の理不尽の前にかき消されてしまった、そんな顛末なのではないかと思わされます。

   吉本興業の「闇営業」をめぐっては、この問題検証の過程において、岡本昭彦社長のパワハラがあったという芸人側からの告発もあって、新たな展開に入っていますが、すべての根源は企業経営者の常識の欠如が引き起こしたことと言えます。

   経営者の常識の欠如は組織・メンバーの不信感を生み、さらには理不尽を感じるところとなれば求心力を失うばかりでなく、組織のブラック化やコンプライアンス意識の欠如にもつながるということを、改めて強く認識させられる一件であると感じています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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