全従業員対象の規定は「無効」と評価されやすい
しかし、原則として社員には「職業選択の自由」が認められているので、同業他社への転職の制限も合理的な内容と範囲でなければ「無効」と判断されることになります。
具体的には、
(1)守るべき企業の利益の有無
(2)従業員の地位
(3)競業避止義務の存続期間
(4)禁止される行為の範囲
(5)代償措置の有無
―― などが考慮されることになります。
まず(1)については、そもそも守るべき会社の利益(技術情報・顧客情報・ノウハウ等)がなければ、制限する必要はないからです。
次に(2)については、判例上、全従業員を対象としている規定は無効と評価されやすく、「あくまで機密性の高い情報に接する従業員に制限すべき」との考えを示しています。
そして(3)については、会社において1年ないし2年と規定されていることが多く、最近までは基本的に有効と判断されてきましたが、近年、2年の存続期間を否定的に評価する判例も出てきました。
具体的には、保険業での事案で、「保険商品については、近時新しい商品が次々と設計され販売されているころであり、保険業界で転職禁止期間を2年間とすることは、経験の価値を陳腐化するといえるから、期間の長さとして相当とは言い難い」と、判示したものがあります。
理由としては、業界特有の事情を踏まえたうえ、その他の要素も考慮した中で、職業選択の自由を過度に制約していると判断されれば、無効とされています。ですので、その他の要素で制約の度合いが大きいケースでは、たとえ1年であっても無効とされている判例もあるのです。
さらに(4)については、同業他社への転職を全面的に禁止する規定は、無効と評価される傾向にある一方、業務内容、職種、地域等を特定し、禁止する行為の範囲も限定していれば、有効と評価される傾向にあります。
最後に(5)については、同業他社への転職を制限する代償として、従業員に相当額の金銭補償をすると、有効と評価される可能性が高まります。