京都の国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」は、上質な肉と独特のレシピが評判を呼び、いまでは古都の行列店の一つとして知られる。
この店が注目されたのは、じつはそればかりではない。既成概念から離れた経営手法により、労働時短などの働き方改革やフードロス削減などで効果をあげ、飲食店ではとくに取り組みが困難と考えられていたこうした問題で、ロールモデルに名乗りをあげたからだ。
「売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放」(中村朱美著)ライツ社
赤身の多い国産牛を「利き肉」して選ぶ
「佰食屋」は、当時20代後半だった若い夫婦が「定年後に」と考えていた店を「どうせなら」と、大きく前倒しして2012年11月に京都市右京区に開いた。丼一杯のご飯と食べてももたれない、赤身が多い「国産交雑牛」を「利き肉」して選び、焼き加減と調理法を工夫して提供するステーキ丼は自信のメニュー。ところが、いざ開店してみると客足は思ったほど伸びない。「1日100食」を目標にして、それを店名にしたのだが、客数は多いときでも30人という日が続いた。
スタートは散々だった「佰食屋」。しかし、その後、客と思われる人物の個人ブログをきっかけに客足がグンとアップ。行列店の仲間入りを果たして、店は市内計3か所となり、従業員の雇用も増えた。
本書「売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放」(ライツ社)は、「佰食屋」の成長をたどったもので、著者の中村朱美さんは、創業者夫婦の妻。せっかく波に乗ってきた飲食店経営なのだから、ふつうに考えれば、さらに拡大を目指すところなのだろうが「佰食屋」は、本書のタイトルにある通りそうした路線は選ばなかった。
経営の柱は、よいものを、確実に売れる分だけ用意して、売れたら終わり――という仕組み。人気店となり、それ以上も可能だが、十分なラインとして上限を「1日100食」として完売すれば営業終了。従業員の給料は「百貨店並み」ながら、ほぼ定時退社が約束されている。
雇用に余裕を持たせているので、有給休暇もほぼ自由に取得でき、アルバイトの勤務も柔軟性が高い。だから、多くの飲食店が抱える人手不足の悩みもないという。提供する分だけを仕入れるので、フードロスもほとんどない。どの店も冷蔵庫だけで冷凍庫を置いていない。