ヒットしないと運行できない!? 銚子電鉄の「崖っぷち商法」今度は映画「電車を止めるな!」(気になるビジネス本)

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   千葉県銚子市のローカル私鉄、銚子電気鉄道(銚子電鉄)は苦しい経営が続いている。これまで、やっとの思いで危機をかわしたことも、一度や二度ではない。

   ここ数年の危機を「ぬれ煎餅」でしのいだのも束の間、経営はいまなお「崖っぷち」。テレビの旅番組や街ブラ番組で見かける様子から伝わるのは、のどかな風情ばかりだが、その裏側では社長らサバイバルに奮闘している。人気商品や映画のヒット作が生んだブームに便乗した、あやかり作戦で電車道を進んでいる。

「崖っぷち銚子電鉄 なんでもありの生存戦略」(竹本勝紀、寺井広樹著)イカロス出版
  • 映画がヒットしないと電車が止まる事態も……(銚子電鉄のホームページより)
    映画がヒットしないと電車が止まる事態も……(銚子電鉄のホームページより)
  • 映画がヒットしないと電車が止まる事態も……(銚子電鉄のホームページより)

たい焼き、ぬれ煎で副業メーンに

   本書「崖っぷち銚子電鉄 なんでもありの生存戦略」(イカロス出版)の共著者の一人、竹本勝紀さんは銚子電鉄の代表取締役。もう一人の寺井広樹さんは、銚子電鉄を盛りあげるためのさまざまイベントをプロデュースし、竹本さんが「救世主」と呼ぶ人物だ。

   「ぬれ煎餅」の売り上げが、鉄道部門を上回り、いまや「鉄道会社」から「食品会社」になった銚子電鉄。寺井さんは、その路線を踏襲して「まずい棒」を考案、これがぬれ煎餅以上の人気という。

   寺井さんは「離婚式」のセレモニーや「裂人(さこうど)」というコンセプトを考案したプランナーとしても知られる。

   銚子電鉄をめぐっては、もう何年も前からたびたび、台所事情の苦しさや廃線の危機に瀕していることが報じられ、そのたびに、何らかの支援で生き延びてきて、地元の利用者や全国の鉄道ファンらは、ハラハラしながら、その後ホッと胸をなでおろしたものだ。

   同社がこれまでの危機で、克服に大きく貢献したのは、経営の足しにと副業で始めた「たい焼き」や「ぬれ煎餅」だ。たい焼きは、往年の大ヒット曲「およげ!たいやきくん」がリリースされた翌年の1976年に事業をスタート。ブームに乗って販売は順調に推移した。2匹目のたい焼きならぬドジョウをねらったのがぬれ煎餅。こちらは95年から始めて、99年には年間売り上げが約2億5000万円となり、当時の鉄道部門の売り上げ(約1億4000万円)を大きく上回った。

国民的駄菓子に対するリスペクト前提

   ぬれ煎餅の事業も取り組みを始めてから20年以上。竹本さんが何か新商品はないかと思案していた2年ほど前、銚子電鉄に関心を持ちイベントなどで協力していた寺井さんが「まずい棒」はどうかともちかけてきた。銚子電鉄の歴史を振り返ると、じつは「まずい」ことばかり、という意味のネーミングだ。1913年(大正2年)に銚子遊覧鉄道として開業以来、廃業、会社解散、身売り、赤字続きと、おいしいことはほとんどなかった。竹本さんは「スゴイおもしろいアイデア」と身を乗り出したという。

   名前が「まずい棒」でも、ほんとにマズくちゃ売れないなどと、さまざま議論を重ね商品化が具体化したのは2018年。しかし、最後に関門がある。「とてもうまいあの国民的駄菓子を手がけているY社さんに仁義を通さなければ」ならない。竹本さんと寺井さんは、Y社に対し電話や訪問を繰り返し「あくまでも先行商品に対するリスペクトを前提としたオリジナル商品」と説明して理解を得られ発売にこぎつけた。

   ぬれ煎餅ヒットの前例や、ネーミングの妙、さらには、販売開始を「8月3日18時18分(831818=破産いやいや)」と、語呂合わせでピンポイント化したことでメディアでの報道もスケールアップ。同日と8日の2回に分け1万5000本ずつを入荷することにしていたが、翌日の午前中で初回入荷分が売り切れ、遠方から駆けつけたのに買えない人が多数いたという。

「カメ止め」公認の「超C(銚子)級」映画

   「まずい棒」が、うまくいったことを目の当たりにした竹本さんは、寺井さんに、次のあやかり戦略の相談をもちかける。「あの作品を観たときにビビビッと来ちゃったんです。「よし! 銚電でも映画を創ろう!」って」。「あの作品」は「カメラを止めるな!」。竹本さんが考えている作品は「電車を止めるな!」だ。

   銚子電鉄では2020年度以降、変電所の改修工事に多額の費用がかかることが見込まれ、その資金調達の必要に迫られている。その額は2億円。「またパクリじゃないですか」とあきれる寺井さん。それでも、プロデュースの依頼に「電車を止めないためには、映画をヒットさせるしかないですね」と請け負った。

   タイトルをめぐっては制作協議のなかで反対意見もあったが、「カメ止め」の上田慎一郎監督から「電止め」のタイトル使用について快諾を得られた。竹本さんは「『カメラを止めるな!』の公認に昇格したわけだ」と喜びを表した。

   「超C(銚子)級」映画と銘打った映画「電車を止めるな! 呪いの6.4km」は、8月公開予定。竹本さんは本書で「3億円のヒットを目指したい」と願っているところ。電車は動き続けるか、止まってしまうのか――。

「崖っぷち銚子電鉄 なんでもありの生存戦略」
竹本勝紀、寺井広樹著
イカロス出版
税別1500円

姉妹サイト