「災害と法」平時から必要な住民との議論
このように、医学研究における個人情報の取り扱いルールにつき、非常に簡略化して説明しました。それでも初めて目にする方にとってはそれなりに複雑と感じられたのではないでしょうか。
災害という混乱のなか、医学研究に詳しくない自治体や医療以外の専門家が、このルールのすべてを即座に理解しなければならなかった、という点を、私たちは改めて考える必要があると思います。
「そんなルールも知らない人間が個人情報を扱うべきではない」
そういう批判もあるでしょう。しかし、繰り返しますが、災害時に人々がどのような苦難に直面し、どのような健康被害を受けたのか。その情報は、現場にいる人間によって即座に収集されなくてはなりません。
もちろん、災害という特殊な事態だからといって、個人の尊厳が軽視されるべきではありませんし、個人情報が保護されなくてもいい、という話にはなりません。ただ、災害という混乱の中で、このルールの遵守はこれから先も求められ続けるものなのでしょうか。そして、手続き上の過ちは、過去に遡ってまで糾弾され続けるべきものなのでしょうか。
もう一つ懸念することは、法律の話ばかりすることで、災害時の情報セキュリティについての議論はおざなりになってしまうことです。そして、読んでいただければわかるように、法や指針に従ったとしても、それは必ずしも情報漏洩を防止できるものではありません。
個人情報保護における世間一般の誤解は、この法に則るか否かと、情報漏洩のリスクの有無が混同されてしまっていることではないかと思います。
このような災害時の個人情報と法のあり方につき、平時から住民の方々と議論が必要ではないか、というのが私の意見です。そのうえで、自治体、研究者、法律関係者、官僚のあいだで、明確なルール作りがなされるべきではないかと思っています。(越智小枝)
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。