災害時は患者の「住所が変わる」可能性がある
(3)患者さんへの「通知」の問題
じつは(3)オプトアウトの場合にもう一つ重要な問題があります。それは患者さんへの「通知」です。災害のような緊急時には、患者さんを診察するのは病院内とは限りません。あるいは避難した患者さんを病院で診ても、その後患者さんの住所が変わる可能性は高いですし、また、二度とその病院を受診されない方もいるでしょう。
そのような場合に、たとえば病院のロビーに大きな貼り紙をする、患者さんの登録してある住所にお知らせを送る、などという方法で通知を行うことが難しくなります。また、病院ホームページへの掲載も「通知」として許容されますが、被災地にあるすべての病院がホームページを持っているわけでもありませんし、また災害時にホームページの更新ができなくなった病院もあります。
つまり、「患者さんに拒否機会を与えた」とするオプトアウトの条件を満たすことができないのです。
また、通知の期間も問題です。通知をしても拒否の連絡がないので論文を書いたところ、数年後に「データを撤回したい」という申し出があったとしても、実質上撤回は不可能です。
そこで、患者さんに通知をする場合には、拒否機会を1か月などと定めて通知する場合も多いと思います。しかし、災害という混乱時には「災害の時には撤回する余裕などなかった。たとえ数年後でも撤回できるべきだ」などという意見も起き、適切な通知についてもコンセンサスを得にくい、という状況があります。
(4)匿名化の問題
では、その情報を完全に「匿名化」してしまう②の方法はどうでしょうか。これは被災地においては一番有力な方法のように見えます。しかし前述のように、患者情報と匿名化情報の「連結表」が病院内にある限り、その情報は匿名化されていない、とみなされます。
また、本当にその情報で個人が特定できなくなっているのか、という問題も生じます。例えばある避難所の避難者の情報が一般公開されていて、かつある年齢の患者さんが一人しかいなかった場合。氏名や生年月日を消しても、年齢がある限り「匿名化」されていないのでは、という議論が起こります。(越智小枝)
(つづく)
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。