宣伝・広告費などほとんどない中小企業が消費者の心をつかむためには、マスコミを味方につけるのが一番の近道だ。メディアでの露出が増えれば、消費者ばかりか、取引先や金融機関の信用を勝ち取るための追い風になる。
人気経済番組の元ディレクターが、取材する側から、企業のPR戦略の構築をアドバイスした「タダで、何度も、テレビに出る!小さな会社のPR戦略」(同文館出版)は、大事なことは繰り返してメディアに取り上げられることという。そのためには、ドラマ性ある「ストーリー」があるかどうかがカギになるそうだ。
「タダで、何度も、テレビに出る!小さな会社のPR戦略」(下矢一良著)同文館出版
「負け組」から立ち上がった「ストーリー」
「ストーリー」があれば、同じストーリーがメディアの種類を変えて、何年にもわたって、ニュースとして、話題として、取り上げられることが続くという。日本酒「獺祭」で知られるようになった山口県岩国市の旭酒造が代表例の一つだ。
旭酒造は、杜氏の経験と勘に頼らない科学的な酒造りを指向。また純米吟醸酒に特化した商品構成や積極的海外展開など、業界の常識を次々と打ち破って知られるようになった。こうした取り組みが報じられたのは2005年6月、全国紙の地方版で。当時の旭酒造は従業員7人、売上高3億円ほどの無名の企業だった。1998年に同社の杜氏が「FA宣言」したのをきっかけに変革への歩みが始まったという。
旭酒造をめぐる報道は2010年ごろから頻度が増す。そのなかで、桜井博志社長(当時、現会長)が1984年に父親の急逝により34歳で酒蔵を継いだが、規模が小さく販売不振にあえぎ「負け組」だったことが明かされ、そうした逆境からのサクセスストーリーが語られる。
「10年以上にわたってマスコミで語られている旭酒造のストーリーは、ほとんど変わってはいません」と著者。ドラマ性があるストーリーにメディアの関心が絶えることはなく、報道がPR効果をあげたこともあり「今では売上高100億円を突破、従業員は200人を超えた」ものだ。