「GAFA」とまとめて呼ばれることがすっかり定着した米国のプラットフォーマー4社は、近年、個人データの取り扱いや市場の独占、課税逃れなどを指摘されて評価の潮目が変化してきた。
革新的IT企業として仰ぎ見られる存在だったものが今では、各国で規制が強化されるなど包囲網が築かれはじめているという。
「プラットフォーム経済圏 GAFA vs.世界」(木村登英著)日経BP
無償サービスでGAFA成長の理由
GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のそれぞれのサービスは、ほとんどが無償で提供されているにもかかわらず、4社はそろって巨大な富を生みだしている。本書「プラットフォーム経済圏 GAFA vs. 世界」(日経BP)ではまず、そのからくりを解き明かしている。著者の木村登英さんは、日本銀行政策委員会の審議委員を務めたトップエコノミストだ。
プラットフォーマーが提供するサービスに対して利用者は金銭を支払ったりすることはないのだが、じつは目に見えない対価を支払わされている。利用との交換で知らせることになる「個人情報」だ。「ユーザーがサービスを利用すると膨大な個人データが蓄積され、その個人データが本人の知らないところでターゲット広告などに利用されている」。個人情報はほかの方法でも利用され、プラットフォーマーの成長を支える柱になっているという。
個人データをビジネス利用
GAFAは欧州各国でも巨大な収益を上げているが、域内に恒久的施設を置いておらず、それは税金逃れだと批判を受けた。EUは規制を強め制裁金を課すなどして逆襲。英国は「デジタル課税」導入の方針を示している。
欧州ではまた、2019年5月に欧州一般データ規則(GDPR)が発効。EU加盟国に欧州3か国を加えたEEA(欧州経済地域)域内で、すべての個人データについて保護を強化するもので、世界で最も厳格なプライバシー規制とされる。アジアでも同じような規制が数か国で導入予定という。
個人情報をビジネスばかりか、政治や国民監視への応用を考えていたという中国では、GAFAの呼び名が現れる以前から米IT企業の排除を実施、個人情報の海外流出を予防した。巨大市場を国外企業に開放することなく自国の企業を優遇し、SNSのテンセントやECのアリババなどが、個人情報を使ったビジネスのノウハウを確立。中国はこれら企業と連携して、国際市場でのプレゼンスを高めたいと考えている。主なターゲットは、中国が提唱している経済圏構想「一帯一路」の参加国という。
中国は、今後に本格化する「5G」の通信ネットワークを、この「一帯一路」に広げて「デジタル・シルクロード」を実現することも構想しているという。次世代の5Gをめぐっては、ファーウェイをはじめ中国企業が数多くの規格必須特許を保有。ZTE(中興通訊)なども含め中国企業全体が保有する特許は2019年2月初め時点で1529件で世界の36%にのぼる。他方、クアルコムやインテルなど欧米企業の占める割合は14%にとどまるという。
トランプ米大統領はファーウェイ排除を呼び掛けたが、5G時代が本格化すると同社の技術を使わないわけにはいかず、仮に排除が完全に行われてもファーウェイには特許の使用料を払わなければならない。
個人情報は個人が利用
個人の情報は個人のもの―という観点で、その利用も個人に任せようと始まったのが、日本の「情報銀行」だ。商品の購買履歴などさまざまな個人データを集め、管理し、それらを企業に有料で提供する枠組み。18年2月に認定申請の受付が始まり、すでに認定事業者が誕生している。事業者の審査・認定をするのは、政府ではなく一般社団法人の日本IT団体連盟。18年10月に開かれた認定条件の説明会には約200社が参加し、関心の高さを裏付けた。
情報銀行が本格的に機能するための当面の課題は、個人が受け取る対価とみられる。飲食店の割引クーポンなどでは、すでにプラットフォーマーからも受け取っている。だから「情報銀行を活用するインセンティブにならない可能性があるだろう」と著者。「データを提供する個人が果たして魅力的な対価を得られる仕組みになるかどうかは、情報銀行の枠組みが十分に機能するかどうかの鍵を握る」
「情報銀行」の成り行きには世界も注目しているという。
「プラットフォーム経済圏 GAFA vs. 世界」
木村登英著
日経BP
税別2200円