「子連れ出勤」を認める企業が増えている。しかし、子どもを職場に連れて行く人も、迎える同僚も何かと気苦労が絶えない。
働く女性を対象にした意識調査によると、「賛成」と「反対」がほぼ二分された。しかも職場に連れて行く当事者より、迎える側の同僚に「賛成」が多いという意外な結果が出た。なぜ、迷惑をこうむる可能性がある同僚に賛成が多いのか。調査を担当した専門家に聞いた。
子連れ出勤を推進する政府に「保育園が先だ!」と反発の声
子連れ出勤は、じつは国が積極的に推進しようとしている政策だ。2018年6月に政府の少子化克服戦略会議が出した提言の中で、子育て支援の一つとして企業に求める施策の中に「子連れコワーキングスペースの整備」「中小企業の子連れ出勤の環境整備」があげられた。
今年(2019年)1月には宮越光寛少子化担当相が茨城県つくば市にある 子連れ出勤を認めている授乳服メーカーを視察。働く母親の横にいた赤ちゃんを抱きあげ、「乳離れしていない子どもにとって、母親がいつも近くにいるのは素晴らしいことだ」と絶賛した。しかし、「子育ては母親の役目」と言っているふうにとられるのを恐れたのか、すぐに「子育て中の女性だけではなく、男性の子連れ出勤も検討すべきだ」と付け加えた。
国が子連れ出勤を奨励することに対して、SNS上では「保育園を整備するなど、ほかにやるべきことがあるはずだ」といった反発や、「社会全体で子育てをする意識が高まる」といった共感など、賛否両論が巻き起こったものだ。
主婦に特化した人材サービス「しゅふJOB」の調査機関「しゅふJOB総研」が行なった1000人の女性を対象にした「子どもを連れて出勤するってどうなの? 働く主婦の意識調査」(2019年7月2日発表)によると、「子連れ出勤をしたことがある」人は15.4%(ない人は84.6%)だった。また、「子連れ出勤する同僚と一緒に働いたことがある」人も16.7%(ない人は83.3%)いた。この数字は、意外に多いというべきか、まだまだ少ないとみるべきか。
子連れ出勤のメリットについて聞くと(複数回答)、「保活に失敗しても働くことができる」(48.5%)、「保育施設に預けに行く手間が省ける」(43.2%)、「子どもが近くにいて安心して仕事ができる」(42.9%)の3つを上げた人が多く、「メリットは何もない」と突き放した人が18.3%もいた=表(1)参照。
一方、子連れ出勤のデメリットについて聞くと(複数回答)、「職場に迷惑をかける(81.1%)、「仕事に集中できない」(79.8%)、「通勤が大変」(61.7%)の3つが高い割合だった。「デメリットは何もない」と答えた人は0.9%しかいなかった=表(2)参照。メリットより、デメリットのほうが大きいと考えている人が多いようだ。
「子供は社会全体で育てていくものだと思う」
ところが、子連れ出勤に賛成か反対かを、「自分が子連れ出勤する立場」と「子連れ出勤の同僚と働く立場」に分けて聞くと、微妙に賛否が拮抗する。「子連れ出勤する立場」では、賛成が43.8%、反対が56.2%と、「子連れ出勤したくない」とする人の方が12ポイント以上も多かった。しかし、逆に「子連れ出勤の同僚と働く立場」では、賛成が55.1%、反対が44.9%と、「同僚の子連れ出勤を認める」人のほうが10ポイント以上多かったのだ=表(3)参照。
これは、どういうことだろうか。それぞれの立場からのフリーコメントを見ると、複雑な気持ちが読み取れる。
まず、スタンスとして「子連れ出勤することも、同僚として一緒に働くことも賛成」と、全面的にOKと回答した人の意見は――。
「復職する意欲はあるのに保育園に落ちて仕事ができないのであれば、賛成せざるを得ない。一緒に働く側として反対する権利はないと思う」(40代:子どもがいる)
「私も子どもがいるので、成長見守りつつ幼稚園入園するまで一緒にいたい」(30代:いる)
「子連れ出勤に関わらず、これからは働き方の多様性を受け入れないと企業は人を集められないと思う」(50代:いる)
「子供は社会全体で育てていくものだと思っている」(50代:いない)
「子連れ出勤の人と一緒に働いていたが、何の問題もなかった」(20代:いる)
などと、もろ手をあげて賛成ではないが、コメントから寛容の気持ちが感じられる。
「仕事中まで子育てをして母親の負担ばかり増える」
一方、「自分が子連れ出勤することも、同僚として一緒に働くことにも反対」と、全面的に否定的な人の意見はこうだ。
「子どもの騒ぐ声で集中できない。走り回り、ケガでもされたら困る。子連れ出勤を奨励するのではなく、在宅勤務を取り入れるなど、子育てしながらキャリアを継続させるいろいろな方法を議論するべきだ」(50代:いる)
「とても人懐っこい元気な子を連れてくる人がいた。ある男性が最初は可愛がっていたが、忙しい時にもまとわりついて離れないので、その子に怒り、母親と気まずい関係になってしまった」(40代:いない)
「仕事中まで子育てしなきゃいけなくなり、母親の負担ばかり増える。それを美化する風潮にならないか心配だ」(40代:いる)
「職場には子どもが嫌いな人、欲しくてもできなかった人、不妊治療中の人もいるだろう。そういう人に配慮はないのか」(50代:いない)
などと、反対であっても必ずしも意地悪ということではなく、職場のあるべき姿や、親やこどもへの負担を考慮した意見が目立った。
「どうしようもない事情があるのなら温かく見守ろう」
そして、一番多いのが「自分は子連れ出勤することに遠慮はあるが、同僚がするなら応援したい」というエールを送る意見だ。
「実際子連れで働き、とても大変だった。他の人に気を使って集中できなかった。同僚の子どもなら和やかにできるし、応援したい」(30代:いる)
「子供を通勤電車に乗せ、外遊びが出来ない環境に置くのは抵抗がある。私自身は嫌だが、同僚が納得の上で連れて来るのであれば、否定はしない」(40代:いる)
「基本的に職場に連れて来るべきではないと思うが、子育てにはさまざまな事情が生じる。どうする事もできずに連れてきたのなら、周りは温かい目で見守ってあげるべきだ」(50代:いる)
つまり、自分が子連れ出勤するのは周囲に申し訳ないが、やむをえない事情が同僚にあるのなら温かく見守りたいというわけだ。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、調査をまとめた、しゅふJOB総研の川上敬太郎所長に取材した。
――子連れ出勤の賛否を聞くと、「賛成」「反対」が見事に二分される難しい問題ですね。しかし、自分が子連れ出勤する立場より、同僚としての立場のほうに賛成の割合が高いのは、「困っている時は相身互い」という寛容の意識が強いということでしょうか。
川上敬太郎さん「子連れ出勤にはメリットがある一方で、たくさんのデメリットがあります。メリットよりデメリットのほうがイメージしやすいものです。子どもが周囲に迷惑をかけたり、子どもに何かアクシデントが起こったり、といったことをイメージすると、子連れ出勤する大変さが見えてきます。
だから自分は子連れ出勤したくはないと思う。それでも子連れ出勤する人がいたら、そこまでしなければならない事情を察して、『お互い様』と協力してあげようという気持ちになる人が多いのではないでしょうか。また、寄せられたフリーコメントを読むと、ご自身には子どもがいないものの、『子どもは社会で育てるもの』という考えの人も多くいました。
一方で、子連れ出勤の経験があっても、子連れ出勤に反対だと答えている人もいます。育児しながら働きたいと考える女性が増える一方で、保育施設はニーズに応えきれておらず、子どもの預け先がないために致し方なく子連れ出勤する不本意型子連れ出勤者がかなりいると思います」
「在宅勤務の仕組みがもっと広がるとよい」
――フリーコメントのデメリットの発言、たとえば、人懐っこい子にまとわりつかれて怒る男性社員の例などを見ると、職場に保育スペースがなく、子どもが野放し状態で走り回るケースが多いようです。会社はどういう対応をしたらよいでしょうか。
川上さん「会社に保育スペースの設備があれば安心して子どもを預けられるでしょうが、会社にとっては負担になります。本来は自治体が十分な保育環境を確保すべきで、会社が準備すべきとまでは言えないと思います。しかし、優秀な人材を確保したいと考えるなら、保育設備を整えることは差別化につながり、採用でも有利になるはずです。会社側の採用戦略の中で検討することは有効だと考えます」
――政府は子連れ出勤を推奨していますが、フリーコメントの中には「子連れ出勤をしなくても済むような在宅勤務体制(テレワーク)を取り入れるべきだという意見もありました。
川上さん「在宅勤務の仕組みは、もっと広がるとよいと思います。もちろん、在宅でもお子さんが動き回ったりすれば仕事に集中できない可能性はありますが、少なくとも同僚に迷惑をかけるという心配はなくなります。また、満員電車に子連れで乗る必要もなくなるため、子連れ出勤にはないメリットがあると思います」
子連れ出勤のルールと保育スペースをしっかりつくろう
――それでも子連れ通勤をする場合、当事者や同僚、会社側はどういう点に注意すればよいでしょうか。
川上さん「お子さん連れでも気兼ねなく勤務できる職場というのは、やはり魅力的だと思います。しかし、賛否意見が分かれていることを理解し、きちんとした配慮がなされていないと様々な軋轢が生じます。配慮には大きく、感情面への配慮と環境面への配慮があります。当事者あるいは同僚として気をつけるべきは、感情面への配慮だと思います。
子育てが大変だからといって、同僚に対して受け入れることが当然であるかのように振る舞えば、反感を買ってしまいます。同僚の中には、子ども嫌いの人もいれば、お子さんに恵まれなかったり、お子さんを亡くされたりした人もいるかもしれません。
一方、会社は職場環境を整え、安心して子連れ出勤できるよう配慮すべきです。まず、子連れ出勤を積極的に奨励するのか、緊急時のみ認めるのか、あるいは一切認めないのか。会社のスタンスがはっきりしないと、子連れ出勤当事者も同僚も振る舞い方に迷いが生じます。そして、子連れ出勤を奨励するのであれば、ルールを設定したり、保育スペースを設置したりして、当事者も同僚も仕事に集中できる環境を整えることが肝要です」
(福田和郎)
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