中国と日本との航空直行便での新規就航や増便が、今年(2019年)になって相次いでいる。特に目立つのは、日本の地方空港への中国からの乗り入れ。観光庁の調査によれば、中国人訪日旅行客はリピーターになればなるほど、都市部よりも地方を好んで訪れている。
航空ルート多様化で、中国人観光客による地方の活性化が一層期待されるなか、受け入れ側では何を心がければよいか――。 中国事情に詳しいクロスシー(東京・上野)の執行役員、山本達郎さんに聞いた。
中国人が「北国」を連想するパウダースノーの岩手県
中国航空各社の日本-中国の直行便は、2019年2月から3月にかけて50路線近く就航しました。昨年11月から12月にかけて増加したのは5路線でしたから、10倍近い増加ぶりです。
増え続ける中国人旅行客の受け皿を整備したい日本側が働きかけてきたことや、日本との関係強化をめざす中国側の意図などが合致した結果でしょう。
その発着地を見て興味深いのは、日本側では大阪、名古屋、札幌が目立つ一方、ほかの地方都市と中国の地方都市とを結ぶ路線が増えたことです。たとえば名古屋とウルムチ、北九州と大連、福岡と青島、静岡と西安や長沙――といった具合です。
いま日本の首都圏空港では中国の航空会社に発着制限があったり、中国でも北京、上海の発着枠が日本の航空会社に回らなかったりしています。こうした要因も相まって、「首都圏以外の都市」や「日本の地方」と「中国の地方」とを結ぶ細かなネットワークが次々にでき上がっているのが現状です。
たとえば国際線と国内線を合わせた旅客数世界第7位とされる大手の中国東方航空(上海)は、関西国際空港と山西省太原との直行便を就航させました。太原は北京から南西に約500キロメートル。姫路市の姉妹都市ですが、このような地方都市にまで直行便が飛ぶようになっているのです。
また東方航空は、上海と岩手・花巻空港とを週2回運航する直行便も開設しました。パウダースノーで知られる安比高原でのスキーを楽しみたい中国人を呼び込もうと、岩手県を中心に東方航空側に働きかけてきた結果です。
東方航空の日本支社幹部は就航セレモニーで、「岩手県出身の歌手、千昌夫の『北国の春』は中国でも有名です。身が引き締まる冷気を感じる雪の季節だけではなく、中国人が『北国』で連想する多くのものが岩手にはあります」と、地元以外に住む人ならではの表現で、観光資源の豊かさにふれました。
「肺を取り換える」旅に出る
中国では「地方都市」といっても、多くの人口を抱え、工業化の結果、PM2.5をはじめとする大気や水質などの悪化に悩まされている地域も少なくありません。石炭の産地として有名な山西省の太原もいわばその代表の一つといえます。
こうした都市に住んでいる人たちが、「肺を洗う」旅行と称して休日に郊外の農村部へ出向き、きれいな空気、のんびりした環境や農村料理などを楽しむ流れが強まってきていました。
さらに、海外で汚れていない空気に触れることは「肺を取り換える」旅行と言います。こうした流れの延長線上に位置づけられるのが、日本の地方への旅行なのだと思います。
ちなみに、地方を訪れる中国人リピーターは、気前よくお金を使ってくれる傾向にあります。観光庁の「訪日外国人消費動向調査」(2017年)は、訪日10回以上のリピーターの好みや行動を、中国、韓国、台湾、香港の4か国・地域ごとに分析しています。それによると、中国人リピーターには「地方を訪れる割合がほかの国や地域からの旅行客より増える」「旅行支出は4か国・地域で最大」という大きな特徴がありました。
旅行回数が増えれば増えるほど旅行支出は増えていき、10回以上旅行者の支出は、中国(30.2万円)、香港(19.8万円)、台湾(14.6万円)、韓国(8.4万円)という順でした。
東京に来ても「空気がキレイ」という感想を持つ観光客もいます。ましてや日本の地方には、豊かな自然環境、穏やかな風景、温泉などの天然資源があります。その他にも、中国人たちは異口同音に「中国と比べると、日本の農村部は、民家の様子や道路まできれいに整っていることに驚く」と語ります。いわば地方の人たちの暮らし方そのものも「魅力」と映っているわけです。
受け入れる日本側としては、「中国人客が何を求めて日本の地方に来るのか」に、もっと意識を向ける時が訪れていると思います。求められるニーズがわかれば、サービスもそれに合わせて向上し、インバウンド消費はもっと活性化するはず。日本の各地方でそういう流れが大きくなっていけば、「観光立国」の実現はグンと近づくでしょう。