政策転換の陰にあの男が......
なぜ、このタイミングでの政策転換なのか――。パウエル議長やクラリダ副議長らの考えでは、インフレ圧力が想定以上に低く、こうした環境下では、実際に弱い経済指標が出てきてからでは遅すぎで、予防的(Preemptive) に利下げすることが望ましいという理論武装です。
そうした考えに大きな異議があるわけではないですが、やはりそこには、トランプ大統領の影響を感じずにはいられません。大統領がトランプ氏でなかったら、ここまで積極的に政策転換しないでしょう。
トランプ大統領には、ドルを押し下げたいという思いがあるようです。それは事あるごとに、ドルのレベルが高いとツィートすることでもわかりますが、何より彼の信奉するレーガン大統領が、任期の最後にプラザ合意で大きくドルを押し下げ、米経済を復活させたという経緯もあるからでしょう。
実際、プラザ合意後の米ダウ平均株価は、ドル下落、金利低下に支えられ1400ドル前後からブラックマンデー直前の2700ドル台へと、わずか2年あまりの期間で倍増しました。
米国大統領の権限は強大です。トランプ氏はその力を遺憾なく発揮させようとしています。政権内に、彼に対して意見する人はいません。その一方で、FRBの独立性は大きく毀損されました。
FRB議長が何度も任期について質問されるのは異様ですし、またそのたびに「残りの任期をまっとうするつもりだ」と聞くのも、なんとも情けない情景です。トランプ氏は、何もわからずワシントンに来ましたが、内政も外交も掌握し、ついには権限を超えて金融政策まで支配下に置いた感じに見えます。
吉と出るか凶と出るか、わかりませんが、トランプ政権は金融緩和でドルを押し下げ、金やビットコインといったものも含め、あらゆる値段を持ち上げようとしているように感じます。
このドル下落トレンドは始まったばかり。相当深いドル安がこれから始まる可能性があります。(志摩力男)