先日、仕事仲間とミーティング後によく飲みに行くお店で、あった出来事です。
その店はチェーン店ですが、定期的に顔を出して我々の名前でお酒のボトルキープもしているので、いわゆる「常連客」として店長含め顔見知りの店員が我々のことをそれなりに認識してくれています。
その日3人で来店した私たちを応対したのは、見慣れない新顔の店員でした。ひと通りの注文をとった後に、仲間のA氏が「名札に店長って書いてあったね。前の店長異動になったのかな」と目ざとく気がつきました。
新しい店長は明るくハキハキとした応対でしたが、どこかビジネスライクというのか、温かみを感じさせない、やや冷淡なタイプかなというのが我々の共通した第一印象でした。
どこか突き放した新店長の態度に、ムッ
店内はいつになく混んでいて、店員は忙しそうに動いています。そんな時、小さな事件が起きました。我々が追加注文をしょうと店員を呼ぶと、その新しい店長がやって来ました。そして、この店としては少しだけ手の込んだメニューをお願いすると、こんなやりとりになりました。
新店長「そのメニューは、かなりお時間いただきます」
私「え?いまだかつてそんなこと言われたことないけど」
新店長「いえ、きょうは時間がかかります」
私「どのくらい?」
新店長「あー、30分ですね。30分いただくことを了解してください」
私「帰りの電車の時間もあるから、少しは急いで欲しいんだけど。まぁ、わかりました。じぁ、最長30分ということで了解しますから、極力早めにお願いします」
新店長「とにかく30分をご了解願います。それでよければお受けします」
なんとも不快な気分でオーダーをすることになりました。彼はおそらく、はじめて店長になったでしょう。店舗の混雑状況を見て、調理が遅れてクレームになることを恐れる余りの行き過ぎた対応のなったのかな。私は思うことにしました。
仲間の2人は、
「あの対応はないよな」
「ボトルまで入れている常連客に対する物言いじゃないでしょ」
と不満を口にし、
「この店に来るのはしばらくやめようか」
という話にまで展開しました。
料理はいつもどおり10分ちょっとで出てきたので、余計に新店長の不要とも思える物言いの悪印象ばかりが残ることになりました。
人の五感に訴えるノンバーバル・コミュニケーション
もちろん、この新しい店長の接客そのものが問題ありなのですが、私はその観点とは別にひとつの話を思い出しました。
人間は、言葉だけで成り立っているわけではなく、五感のすべてで「関係を感じ取りながら」生き、言語(バーバル)と非言語(ノンバーバル)の両方でコミュニケーションを交わしている、という大学の心理学で学んだ知識です。
さらに、このノンバーバル・コミュニケーションは、人間関係形成においてはバーバル・コミュニケーションよりも相手に与える影響が大きく、それは視線、顔の表情、各部位の動きをはじめ、からだ全体から発せられ、意識しているかいないにかかわらず、人と人は向き合うだけで五感に訴えかけるものがあるといわれています。
ノンバーバル・コミュニケーションをベースとして、次に繰り出されるバーバル・コミュニケーションはより大きく影響を受けます。すなわち、ノンバーバル・コミュニケーションによってつくられた印象によって、バーバル・コミュニケーションとしての発言がどのような印象で相手に受け取られるかが決まってしまうというのです。
噛み砕いて言うと、言葉ではない行動、仕草、態度、目線、表情などが、その後に発せられた言葉の印象を左右してしまい発言受け入れ側の態度に大きな影響を及ぼすわけなのです。
先の新店長の仕草や表情や態度から、我々3人に伝わった最初の印象こそ、まさにノンバーバル・コミュニケーションなのです。3人が共通して感じた、ビジネスライクでどこか温かみを感じさせない彼の雰囲気が、その後を支配することになるわけです。
バーバル・コミュニケーションである追加注文の際の物言いも、最初のノンバーバル・コミュニケーションがなかったなら、あるいは少しでも温かみを感じさせていたなら、我々が受ける印象は違っていたと思いますし、実際にはさほど待たされることなく料理も出ても来たので、少なくとも「この店に来るのはしばらくやめようか」という話にはならなかったハズなのです。
ノンバーバル・コミュニケーションの大切さを、改めて痛感させられます。
能力があるリーダーなのに部下がついてこないワケ?
米国の社会心理学者エミー・カッディー博士によれば、人間は相手の印象を「温かさ」と「能力」の二つの側面に集約して相手を判断し、マジメに従うのかいい加減に従うのか、あるいは従わないのかを決めるのだといいます。
経営者という組織リーダーのことを考える時、「能力」があることはもちろん大切ですが、まとまりのある組織をつくり、求心力を高めていくためにはそれだけでは足りず、「温かさ」が確実に必要になるのです。
そして、先の新店長のように相手に伝わる「温かさ」が足りていない場合、いかに「能力」が高いリーダーであっても、部下がついてこない、離反者が出るといったことを招きかねないのです。
では、「温かさ」とは何か。親身になって相手を想う気持ち、リーダーなら社員の成長や幸福を願う気持ち、顧客接客者ならお客さまの満足を願う気持ちに相違ありません。
たとえば、常日頃の私の経験からは、離職率の高い組織とそうでない組織を比べた場合に、明らかにリーダーの「温かさ」に違いが感じられます。
組織もビジネスも、人と人との関係である限り、「温かさ」を忘れては決してうまくいかないのだということは、真っ先に意識すべきことではないかと思います。はからずも、居酒屋店長が体現してくれた真理です。(大関暁夫)