年寄りほどオトクな年金制度 将来がないものに、そりゃあ若者は納めない(小田切尚登)

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   「年金が足りない」という話題が日本中を席巻している。

   この問題の発端となった金融庁のレポートには「夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり...... 不足額の総額は単純計算で 1300万円~2000万円になる」とある。

   日本の年金制度はダメなのか? とんでもない。日本の年金制度ほど素晴らしい投資はなく、高齢者の多くは公的年金のおかげで安定した生活を送っている。これに加えてパートなり運用などで月に5万円くらい足せば、豊かな生活が送ることができますよ......。これが今回の話の趣旨だと考えるべきだ。数字をもとに実態を分析してみよう。

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「現行」の年金、じつは儲かる!?

   まず、国民年金(老齢基礎年金)は、年78万100円を65歳から死ぬまで毎年支払われるというものだ。これをもらうため、われわれは月1万6410円の保険料を20歳から60歳まで支払う。

   40年分を合計すると787万6800円。つまり年金を10年間すなわち65歳から74歳まで受給すれば、ほぼトントンになるということだ。わが国の平均寿命は男性81歳、女性87歳なので、たいていの人は払った金額よりもずっと多くの金額をもらえる。

   じつは得するのはこんな程度の話ではない。実際に今の高齢者が払い込んだカネはもっとずっと少ないのである。たとえば、今65歳の人が20歳だった時(1974年)、国民年金保険料の振り込みは月額たった900円だった。

   その10年前は月額なんと、100円。高齢者は長年続いた日本の経済発展の果実を年金の形で得ているということだ。

   厚生年金保険も、国民年金以上に劣らず有利な投資だ。サラリーマンは毎月の給料の18.3%を保険料として天引きされるわけだが、半分は事業主が払うので、本人は9.15%を負担するだけで良い。加えてサラリーマンの専業主婦も保険料を一銭も払わずとも老齢基礎年金を受け取れる。

年金制度が「存続」できる理由がある

   それほどまで年金受給者に有利な制度が存続していられるのはなぜか――。理由は大きく三つある。

   まず、賦課方式が採用されていること。これは手元の資金の出入りを年ごとに管理するやり方だ。いわば「どんぶり勘定」であり、長期的な展望に欠けている。年金資金は現役世代が払う保険料を右から左に回していけばいいので、将来のことはいざ知らず、当座の資金繰りの問題はない。

   二つ目は、税金が流用されていること。税金も年金保険料も国民の懐から出ているカネ、ということでは同じだ。しかし、税金は高所得者の負担が大きく、年収1000万円以上の高額所得者が所得税の約半分を負担している。

   つまり税金の投入により、高所得者から低所得者への再配分がなされているということだ(ちなみに英米では税金を年金に流用するということはない)。

   国民年金については、給付の半分が税金から払われている。厚生年金の給付についても二割程度が税金からの資金からきている。これは全体として、年金の原資の半分以上は国と企業から来ているということだ。

   年金の本来の趣旨、すなわち個々人が長年積み立てていって退職後に備える、というのとは程遠い状況になっている。

   三つ目は、運用の成果。2001年度から年金の運用を請け負っているのが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)である。GPIFでは国内外の債券と株式にバランスよく運用してきた。2018年第3四半期末時点で運用残高は150兆6630億円で、2001年度からの累計で56兆7000万円増えており、収益率は年率2.73%である。

   リーマンショックがあったりして短期的に下がる局面もあるが、長期的にこれだけ増えているのはまずまずだ。国内ではゼロ金利と株価の伸び悩んでいる中で、海外にも積極的に資金を振り向けていることが功を奏した。

豊かな暮らしの高齢者

   今の高齢者には比較的豊かな人が多い。世帯主が60歳以上の世帯の貯蓄額の平均は2284万円、中央値が1515万円である(家計調査報告2018による)。つまり、必要があれば自分で1500万円くらい何とかなるというような高齢者が多いということだ。

   加えて、75歳以上の後期高齢者の医療費一割負担などの優遇政策もあり、むしろ高齢者優遇ではないか、との批判の声が強い。一方で貯蓄が100万円以下の高齢者世帯が8.3%あるが、この解決を年金に求めるのは筋違いだろう。

   いずれにせよ、20歳から60歳までの40年間働いて年金保険料を納めれば、60歳から100歳までの40年間は一切働かなくとも豊かな人生が送れる、などと考えている人はいないだろうし、そんなことは不可能である。しかし、今の日本では手厚い年金制度によって現実的に高齢者の多くが豊かな生活が送れているというのもまた事実である。

   今の最大の問題は、若い人が年金受給世代になったときどうなるのか、ということにある。老人に手厚い年金を支払っているので、若い人が年金受給世代になったときに払う原資がどんどん減っている。しかも今は少子高齢化が進んでいて、年金を支払う負担が加速度的に重くなっている。厳しい状況だ。

   年金制度は「国家100年の計」であり、国民が世代を超えて納得できるような制度を作り上げる必要がある。

   与野党がパフォーマンス競争に明け暮れるのではなく、じっくりと超党派で議論をして良い政策を作り上げてもらいたいものだ。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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