2019年6月14日、スポーツイベントや音楽ライブなどのチケットを高額で転売することを禁止する「入場券不正転売禁止法」が施行された。
今年開催のラグビーワールドカップ、2020年の東京五輪・パラリンピックの開催を控え、遅ればせながら、チケットの不正転売に対して法の網がかかった。
「入場券不正転売禁止法」は時代の流れ
日本では、かつてはダフ屋と呼ばれる転売を家業とする反社会的勢力がおり、かれらはイベント会場の周辺にいて、観客との間で直接チケットの買い取りを行ったり、高値で売ったりしていた。
チケットの転売はそうした反社会的勢力の資金源であり、決して素人は手を出さなかったし、出せなかった。
だが、「金券ショップ」が誕生すると、金券ショップがダフ屋に代わってチケットの転売を行うようになった。客からチケットを安く買い、儲けを上乗せして販売した。それでも、「金券ショップは、現在問題になっているような高値販売ではなく、限度をわきまえた価格での販売だった」(警察関係者)という。
ところが、インターネットの普及とともに様相は一変する。「ネットダフ屋」が登場し、オークションサイトの普及とも相まって、転売チケットは高値で取引されるようになる。
半面、高値でのチケット転売は社会問題ともなり、批判も相次いだ。その代表例が、IT大手のミクシィ傘下のフンザが運営した「チケットキャンプ」(チケキャン)だった。チケキャンは多くの問題を起こし、閉鎖に追い込まれた。
ただ、チケキャンが問われた罪は、「詐欺」と「商標法違反」で、チケットの高額転売が直接、罪に問われたわけではない。この時、日本には高額転売を直接的に罪に問える法律が存在していなかった。
反社会的勢力がダフ屋を生業にしていた時には、地方自治体の迷惑防止条例で取り締まりが行われていた。金券ショップは都道府県の公安委員会から古物商の営業許可を取得しており、取り締まりは古物商として詐欺や商標法違反などでしか行えなかった。
そこで、新法として「入場券不正転売禁止法」を施行した。同法では、チケットに有償譲渡の禁止を明記するなどの要件を満たせば、「特定興行入場券」として転売を規制することができるようにし、罰則規定も定めた。
もちろん、興行主などの正式なルートで正規の値段で、チケットを転売することはできる。
「人間の欲求」を規制するのは難しい
じつは、チケットの高値転売に頭を痛めているのは、日本だけではない。2012年のロンドンオリンピックでも、チケットの高値転売は問題となった。
英国は「ロンドンオリンピック・パラリンピック法」でチケットの転売に規制を課して、大会組織委員会から正式な権限が与えられた場合を除き、チケットの販売などを公共の場所または事業として行うことを禁止、違反者には罰金刑を科した。それでも、水面下でチケットの転売は行われた。
サッカーの2018FIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会では、観戦チケットがインターネット上の転売サイトで40倍近い価格で販売され問題となった。
一方、絵画などの美術品は転売されることにより価格が上がり、その評価が高まっていく。チケット転売と美術品のオークションとを一緒にするな、との声が聞こえてきそうだが、転売を一概に「悪」と決めつけるのは難しいことには変わりない。
「入手したいという欲求が、価値を高める」ことにつながっており、人間の欲求を規制するのは難しい。
転売を禁止しても、法の網を潜り抜けて転売が行われる可能性は高い。このため、最初のチケット購入者を登録し、登録者以外は入場できないようにする「電子チケット」などの開発が進められている。転売されたチケットの購入者を締め出すことで、高額のチケット転売を規制しようという狙いだ。
ラグビーワールドカップ、東京五輪・パラリンピックという世界的なイベントを控え、果たして「入場券不正転売禁止法」は有効に機能するのか。それとも、転売する者とそれを阻止しようとする行政のイタチごっこは続くのだろうか。(鷲尾香一)