政府は2019年6月11日、経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に今年10月、消費税率を10%に引き上げると明記した。自民党も夏の参院選の公約に消費増税を明記しており、これで「リーマン・ショック級の嵐」が来ない限り、消費増税は避けられない見通しになった。
そんななか、消費増税について働く女性の半数近くが「反対」、2割が「賛成」という調査がまとまった。前回(2014年4月)増税時の調査に比べると、「反対」が2割以上減り、逆に「賛成」が増えているのが特徴だ。
いったい働く女性の意識にどんな変化があったのか――。調査担当者に聞いた。
増税のために「もっと働きたい人」が増える?
「働く主婦に聞く、消費増税の影響」という調査をまとめたのは、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」。2019年6月11日に発表した。
まず、「消費税率を10月に8%から10%に引き上げることに賛成かどうか」と聞くと、「賛成」が20.6%、「反対」が46.9%、「わからない」が32.3%だった=図表(1)参照。
前回の増税(5%→8%)前に行なった同じ調査では、「賛成」が14.3%、「反対」が70.4%、「わからない」が15.3%だったから、「賛成」が6.3ポイント増え、「反対」が23.5ポイントも減ったことになる。
また、「消費税率が上がると、生活にどんな影響が出そうか」と聞くと(複数回答)、「家計のやりくりが大変になる」(67.6%)、「全体的に出費を減らすことになる」(63.2%)、「収入を増やさないとやっていけない」(50.8%)が断トツのベストスリーだった=図表(2)参照。
前回の3%増に比べて今回は2%増に加え、軽減税率も導入されるため、「それほどの負担にはならないのでは」との見方もあるが、「特に影響はなさそう」と答えた人は5.5%しかいなかった。
ほとんどの人が家計に何らかの影響が出ることを予想して、出費を減らすだけでなく、収入を増やすことも同時に考えていることがわかる。
そうした危機感は働き方に対する考えにも表れている。「消費税率が上がると、仕事選びにどんな影響が出そうか」と聞くと(複数回答)、「もっと稼げる仕事を選びそう」という回答が47.7%と半数近くになった。
次いで「もっと働きたい気持ちが強くなりそう」(39.2%)、「Wワークなど仕事の数を増やしそう」と(35.1%)と続く。これは、増税のためにもっと働かざるを得なくなるという切羽詰った気持ちの裏返しといえそうだ。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に応じた「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長はこう説明する。
「これからはもっと稼がなくては、という心理が強くなるでしょう。年収103万円や130万円など、扶養枠内に収入を抑えている主婦層がたくさんいますが、扶養枠を外して、より高い収入が見込める仕事に変わりたいと考える人が増えてくると思われます」
「消費税が上がると生活の何がよくなるのか教えて」
フリーコメントで「賛成」と答えた人の中には、「こども世代の将来のためには増税は仕方がない」とする意見がもっとも多かった。
「家計の負担は増えるが、増える社会保障費などを次世代に先送りせずに現世代で負担していくことは重要なことだと思う」(40代、パート)
「これ以上、国の借金を増やすわけにはいかない。子供たち世代の豊かな暮らしのためにも、生活を切り詰めてでも増税を受け入れようと思う」(40代、派遣社員)
といった声に代表される。また、
「幼稚園無償化はとてもありがたい」(30代、今は働いていない)
などと、増税を前提に行なわれる幼児教育・保育の無償化に期待する声もあった。
一方、反対する人に圧倒的に多かったのは、「景気の良さを感じない。収入が上がらないのに支出が増えて苦しくなる」という声だ。
「高所得者層には全然問題ないが、低所得者層にはかなりつらい。格差が広がるのは必至」(50代、アルバイト)
「増税できるほど景気はよくなっていない。今はタイミングが悪い」(40代、派遣社員)
「消費税を上げる前に、消費が上がる景気対策を練った方が税収は上がる」(50代、公務員)
などに代表される。
また、こんな疑問の声も目立った。
「過去に消費税が段階的に上がったが、何がどのようによくなったのか、生活の変化がわからない。さらに10%に引き上げ、どうよくなるというのか? 家計の負担としか考えられないのは、国の変化が目に見えて分からないからだ」(40代、派遣社員)
それにしても、景気の悪化が懸念されているのに、前回よりも働く女性の間で反対の声が弱まっているのはなぜだろうか。川上さんはこう指摘する。
「働く女性たちが、一消費者としての目線だけでなく、大局的見地から国の将来を考えていることがあると思います。その上で、前回調査時との違いとしては大きく三つの要素が挙げられます。一つは10%への増税がすでに2度延期された点。増税が必要と言われながら先延ばしされてきたため、そろそろ上げたほうがよいのかもしれない、という心理へと傾いてきたのでしょう。
二つ目は、消費税増税を前提とした幼保無償化が決まったこと。メリットが具体的に見えている点は、増税を容認する根拠になると思います。三つ目は、将来に対する不安が強まっていることがあげられます。欧州を中心に、福祉環境が充実している国の消費税率は日本よりはるかに高く、先々の暮らしへの不安感から増税やむなしという考えを持つ人が、この5年の間に増えた可能性があります」
「増税の意義をきちんと理解し納得したうえで支払いたい」
フリーコメントに多く見られたのは、「過去に消費税率を上げたことでどんな効果があったのか、はっきりわからない」「行政の取り組みに無駄が多すぎる」といった増税に対する不信感だ。今回は、特に幼保無償化などで若い世代にメリットを示し、不信感を取り除く努力をしたのが大きいという。
また、「老後資金2000万円問題」で噴出したように、現役世代には年金問題を含めた「将来の社会保障不安」が強くなっている。「痛みを伴うのもやむを得ない」という意識が高まっているというわけだ。
川上さんはこう強調した。
「働く女性の真意は、何が何でも税金を払うのがイヤだ、ということではなく、増税するのであればその意義をきちんと理解し納得したうえで支払いたいということだと考えます。政府には、不信感を払しょくし、国民の納得が得られるような丁寧な説明を求めたいと思います。
また、女性たちが増税のためにもっと働かざるを得ないというのではなく、働き方改革による生産性の向上が賃金に反映されて、自然な形で増税の負担感がやわらぐ流れをつくってほしいと思います」
(福田和郎)