「化学反応」生むチームビルディングが現代の企業には欠かせない(気になるビジネス本)

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   日本企業が長年、ビジネス展開のうえで得意としてきたチームビルディング。本書「改訂チームビルディングの技術」(経団連出版)は、それは今や陳腐化して効力を失っていると指摘している。

   アップデートが必要な理由を詳しく述べ、その方法を解説する。

『改訂チームビルディングの技術』(関島康雄著)経団連出版
  • 新サービス取り組みのためソフトバンクとトヨタ自動車は新事業会社を設立。大規模な異業種間チームビルディングに乗り出した
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「どうつくるか」ではなく「何をつくるか」

   以前は、人々のほしいものがはっきりしており、企業は製品をどうつくるかを考えればよく、目標もはっきりしていた。「職場に要求されるのはコストと品質であり、それはある意味で答えがだしやすかった」。組織も、いわゆる正規従業員で構成され、お互いをよく知っており、チームワークは円滑で、チームビルディングについては「技術もさして必要とはされなかった」。

   「どうつくるか」について、際立った違いがない選択肢がいくつか考えられるだけであり、和気あいあいとしたチームのなかでは、大した議論を要せず方向が決まったものだ。

   時代が進んで、まわりにはモノがあふれるようになり、人々のほしいものは多様化。企業は、生き残りのために「どうつくるか」ではなく「何をつくるか」を考える必要に迫られている。

   化石燃料で走るタイプしかなかった自動車は、近年では、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)などが登場。今後は、自動運転なども「ほしい」にかかわるオプションになるに違いない。

   人々のほしいものの多様化に応じて変化した市場は、技術の進歩とグローバル化で複雑化。モノが多種多様になったのはもちろん、販売や購入、支払いの方法も多様化が進んでいる。カオスともいえるビジネス環境だが、アイデア、やり方次第では、大きく成長できるきっかけをつかめる可能性は高い。旧態依然のチームビルディングに頼っていては、時代に取り残されてしまうのだ。

市場からの退場につながる旧態依然

   時代に即した運営に余念がない企業は、チームビルディングにも長けているようで、斬新な製品が次々と開発されている。企業の枠を超えたチームビルディングも近年は盛ん。異業種間提携により予想を超えるような成果も期待できるオープンイノベーションといわれる試みが相次いで発表されている。

   本書の著者、関島康雄さんは日立製作所に勤務し、系列会社の社長などを務めたのちに人材開発コンサルタント会社の代表に就任。人材育成やキャリア形成などについての著書がある。仕事柄、職場についての悩みごとを聞く機会も少なくない。しかし、その悩みの原因というのは、体制の旧態依然が原因。「まわりの状況が変わったのに、昔とあまり変わらないやり方しかしていないから。いままでのやりかたではうまくいかないのだ」と切り捨てる。

   デジタルカメラが登場したとき、フィルムのトップメーカーだった米コダックは高品質のフィルムを低価格で提供すれば競争は可能と考え事業を継続。一方、日本の富士フイルムは、デジタル技術が急速に進歩することを見越し、素早く化粧品などの分野に参入したものだ。「どちらの判断が正しかったかは明らかで、いまやカメラ用フィルムのビジネスは存在しないといっていい。AIやビッグデータ、自動車の自動運転などの技術が、同じような結果を生み出すことは疑いがない」と関島さん。

メンバーは「お互いに触発し合う関係」に

   関島さんが本書のオリジナルを上梓したのは10年前。今回、改訂版に取り組んだのは「仕事を取り巻く環境が一層複雑になり、一人では解決できない問題がふえて、チームによる解決が求められる場面が従来にもまして増えている」ことが理由だ。チームビルディングの技術そのものは古くはなっていないといい、チーム編成のプロセスを論じるたたき台に、古典とされる「タックマンモデル」が用いられており、人事・人材系の入門書としても有効のようだ。

   現代に合わせたアレンジはさまざまに提案されているが、なかで工夫が求められているのはメンバーの集め方だ。必要なのは「お互いに触発し合う関係」を促す構成。それがなければ、和気あいあい時代の「個人の力を足した」だけの成果にとどまってしまう。チームビルディングで最も期待されるのはメンバー相互の交流で起きる化学反応であり、そのために「何より必要なのは、多様性と異質性」という。

   「多様性と異質性は、新しいアイデアの源泉。それは、ちょうど酸素と水素が反応を起こして水という新たな物質ができるように、異なる意見がぶつかることによって、新たなアイデアが生まれる可能性が高まる」と関島さん。

   異業種の企業の間で近年盛んなオープンイノベーションも、お互いになじみのない業界とチームを組むことで、化学反応が起きる可能性が高まるからとされる。本書では、チームの構成メンバーとなって化学反応の主役になるためには、一人ひとりのビジネスパーソンが、自律型プロ人材である必要を説いている。

「改訂チームビルディングの技術」
関島康雄著
経団連出版
税別1500円

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