「どうしたら、もっと社員のモチベーションを高められるか」
「どうしたら、もっと社員が自発的、自律的に動いてくれるか」
「どうしたら、もっと社員が自らの効率性を考えて動いてくれるのか」
これらは、非常に多くの中小企業経営者が私に投げかけてくるお悩みです。一方、私が見てきたこれらのお悩み解決に向け動いた社長の失敗体験には、次のようなものがありました。
ニンジンをぶら下げないとやる気が出なくなる
社員モチベーションの向上が、お悩みのタネだったA社長は、いわゆる販売コンテストを実施しました。
実施期間を決めた成績優秀者に対する特別ボーナス的な報奨金制度です。しかし結果は、報奨金の獲得が狙えるような、そもそもある程度モチベーションが高いスタッフだけがやる気を見せ、それ以外の社員にはほとんど効果がありませんでした。
しかも、「コンテストをやった結果、受賞層の社員もコンテストがないとモチベーションが上がらないような悪癖をつけてしまったようだ」という悪影響もあったようでした。
「なぜうちの社員は、自分から発案したり提案したりしないのか」というのが口癖だったB社長。幹部社員を集めた会議への同席を辞めて役員にその運営を任せ、「必要なことは君たちで決めて、結果を報告するように」と指示して、しばらく様子を見ることにしました。
結果、会議は各部門からの報告会に終始し、恐ろしいほど新しいことを決める議論に発展しない場と化してしまいました。社長は「このままでは会社を潰されかねない」と、自分が検討事項のすべてに指示を出す会議に戻しました。
この一件について、幹部社員の一人に聞いてみると、「習慣づいていないことを求められても、いきなりは無理」との答えでした。
残業するとマイナス査定で業務が粗くなって......
高止まりを続ける残業代の削減に頭を悩ませたC社長は、右腕の専務が提案した「個々人の業務効率化というお題目を掲げて、店舗ごとの獲得収益から残業コストをマイナスして業績を評価する」という評価指標を導入しました。
結果はどうなったのかといえば、残業代削減にはつながったものの業務に粗さが目立つようになり、お客様からのクレームが目に見えて増えて大きな問題になってしまいました。「顧客サービス低下になるような施策では意味がない」と半期で元の評価方法に戻すことに。発案者の専務からは、「職場の体制面、社員のスキル面にそぐわない、時期尚早のやり方であった」との反省の弁が聞かれました。
これらのやり方がなぜ失敗したのかを知るヒントが、知り合いの社員研修会社が全国数千人規模で実施した中堅・中小企業の社員を対象とするアンケート調査結果の中にありました。
アンケート調査で私が着目した項目は、「あなたは、あなたの会社の社長や上司に何を求めますか」という記述項目の質問です。表現の違いはあったものの、集約すると以下のような回答が過半を占めていたことに驚きました。
・自分の変化を手助けしてほしい
・自分を育成し成長させてほしい
・自分の考えや思いを育ててほしい
これらの回答をひと言で表現すると、何よりも「人」としてのぬくもりを感じる上司からの指示、指導を期待しているということになるでしょうか。一方、先の3人の社長がとった「お悩み対策」の問題点と思しき部分を考えてみると、社長方のお悩みの根源が「人」としての姿勢や心構えにあるにも関わらず、その対応策は社員が望む「人」としての指示、指導ではなく「事」として物理的解決法に求めてしまっていたのではないか、ということに気づかされるわけです。
組織における「人」の問題に特効薬なし
A社長のコンテストの実施しかり、B社長の会議運営方法の変更しかり、C社長の業績評価方法の変更しかり。3人の社長が望んだ「モチベーションの向上」も「自発性の醸成」も「積極的な残業削減姿勢」も、本来社員が社長や上司に対して望んでいる、「変化」や「成長」や「思い」に働きかけられずに失敗したとは言えそうです。
「人」の問題はしっかり「人」の問題としてとらえ、単にやり方や社内制度を変えるといった「事」として物理的な変化に解決を求めるのではなく、直接社員の気持ちに働きかけて「変化」や「成長」や「思い」へと導いていくことが必要なのです。
それにも関わらず、多くの経営者は「人」の改善課題を業績進展などと同様に物質的な「事」としての解決策に求め、迷路に入り込んでしまうのです。
組織における「人」の問題に特効薬はなく、「変化」や「成長」を助け「思い」を育てることに、愚直に注力していく以外にないのです。
今回の3社長のケースに限らず、「人」の問題を「事」の問題として解決しようとしているケースは実に多いものです。もし、社内になかなか解決に向かわないお悩みがあるようなら、じつは「人」の問題を「事」の問題として解決しょうとしていないか、社員が社長や上司に対して望んでいる「変化」や「成長」や「思い」を醸成する支援が足りていなくはないか、と考えてみることが解決の糸口になるかもしれません。(大関暁夫)