「のり」だけ載せは昔から不評だった
のりを載せただけで割高なざるそばの評判は、昔から芳しくないようだ。
人づてに聞いた話だけど、かつて日本国有鉄道(現JR各社)の総裁を務めた石田礼助さん(1886~1978年)もそうだった。ぱらぱらとまいたのりの有無だけで、あんなに値段に差があるのはおかしいと言って、そば屋に行く際はいつも、刻んだのりを隠し持っていたそうである。
僕が直接、話を聞いたのは経済団体連合会の会長だった土光敏夫さん(1896~1988年)で、「いい若い者がざるそばなぞは食うべきじゃない。値段の安いもりそばをうんと食ったほうがいい」と話していた。
邪推かもしれないが、そば屋によっては、「ざるそばともりそばの両方を置いたら、二つはどう違うのか、値段の違いは妥当か、などと比べられてしまう。面倒だから、のりを載せたざるそばだけにしてしまえ。あるいはもりそばだけでいいや」なんてことを考えて、あえて片方しか置かないことがあるのではないだろうか。(岩城元)