国民性の違いより、経済体制の違い?
今回の研究では、欧州では非熟練労働者の死亡率が高く、上級熟練労働者との格差が大きいのに比べ、日本と韓国では非熟練労働者の死亡率が低く、「健康格差」が小さいことが明らかになった。これは、日本と韓国では非熟練労働者でも学歴が高く、社会階層間の健康行動に関する相違が小さい可能性が考えられるという。
その一方で、日本と韓国でだけ、欧州に比べて管理職と専門職の死亡率が高いという逆転現象の問題も浮き彫りになった。これは、日本・韓国というアジア人とヨーロッパ人との間の国民性、あるいは民族性の違いが影響しているのだろうか。
小林教授は「これから経済指標を分析しないとわかりませんが、国民性の違いというより、各国の経済の問題だと思います」としたうえで、こう語った。
「バブルの崩壊は日本だけの問題です。また、リーマン・ショック後の世界金融危機では、ヨーロッパはそれほど打撃を受けず、韓国はウォンが大暴落して、一番ひどい影響を受けたと聞いています。日本もリーマン・ショック時には、特に特定の階層で死亡率が上昇したということはありませんでした」
ともあれ、小林教授は「日本と韓国における管理職と専門職の高い死亡率は、働き方の改革を進めるうえで大問題ですから、これから分析を進めます」と述べ、こう強調した。
「ヨーロッパの国々には、職種ごとに勤務時間、かかった病気、死因といった全国民を網羅した精度の高い健康データが豊富にあり、研究者が利用することができます。日本には個々の企業が持っている従業員の健康データを、大学や研究機関が利用できる仕組みがありません。今回の研究で、つくづくデータの不足を痛感しました。米国にも疾病対策予防センター(CDC)という国民の健康を守るために、あらゆる情報を収集して研究機関に提供する組織があります。日本もつくるべきです」
(福田和郎)