「サラリーマンは、気楽な稼業ときたもんだ~」という流行歌があったが、それはヒラ社員の話。管理職になると、ヒラよりも死亡率がグンと高くなるという。
それも日本と韓国だけの特異な現象で、ヨーロッパでは逆に管理職のほうがヒラよりも長生きをする......。東京大学が国際共同研究の論文を発表した。いったいなぜか、研究者に聞いた。
欧州は「管理職のほうが長生き」が常識
この研究をまとめたのは、東京大学大学院医学系研究科の小林廉毅教授と田中宏和医学博士らのチーム。オランダ・エラスムス大学のヨハン・マッケンバッハ教授らと国際共同研究を行ない、2019年5月29日、英国の疫学・公衆衛生専門誌「Journal of Epidemiology and Community Health」オンライン版に発表した。
欧米では、一般的に教育レベルや社会的階層が高い人ほど健康的で、死亡率が低いといわれる。だから、管理職や専門職は、工場などで単純な作業に従事する労働者より死亡率が低い傾向にある。これは「健康格差」(死亡率格差)と呼ばれる現象で、かつて高度経済成長期の日本もそうだった。
ところが、バブルがはじけて深刻な経済不況に陥った1990年代後半から逆転。管理職・専門職の死亡率が上昇して、一般労働者より高くなってしまった。韓国も同様で、リーマン・ショックに端を発した世界金融危機の2000年代後半から管理職・専門職の死亡率が高くなっている。
過去の研究では、日本と韓国ともに、それぞれバブル崩壊後とリーマン・ショック後に、管理職の自殺率が上昇したことが報告されている。しかし、職業分類など同一の基準で日本・韓国と欧州との国際比較は行われておらず、「健康格差」の全体像は明らかにされていなかった。
そこで研究グループは、日本と韓国および欧州8か国(フィンランド、デンマーク、イングランド/ウェールズ、フランス、スイス、イタリア、エストニア、リトアニア)の過去25年間の職業階層別死亡率の格差を国際比較した。35~64歳の働く男性を、上級熟練労働者(管理職・専門職)、下級熟練労働者(事務・サービスなど)、非熟練労働者(生産工程従事者・運転従事者など)、農業従事者(林業・漁業を含む)、自営業者に分けて死亡率を分析したのだ。