米中の対立が新しいステージに入り、多くの人々にこの問題が長期化することが理解されてきました。
両者の対立は確実に景気減速を招きます。世界経済が風雲急を告げ始めたことを反映し、金融市場が揺れはじめたのです。
米ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は2万7000ドルを目前に反転し、現在2万5000ドルを割り込み推移しています。原油価格は4月の高値66ドル台から急落し、現在52ドル台となっています。最もダイナミックな動きを見せているのは、米国の長期金利。少し前まで2.6%台だったが、2.1%を割り込み、2%スレスレのところまで下がってきています。
FRBの金融緩和シフトは内々に市場関係者に伝わっている
米中対立が深刻化しているとはいえ、米国経済は今のところ堅調です。失業率は過去最低レベルの3.6%、毎月のように20万人近い新規雇用を生み出しています。米連邦準備制度理事会(FRB)も、今は「忍耐強く」政策を継続する時期と言っています。
「利上げとは言わないが、利下げするとも言ってはいない」。それなのにどうして、2017年9月の、北朝鮮がミサイル実験をしていた頃のレベルまで米国の長期金利が低下しなければならないのでしょう。
それは常々トランプ米大統領が求めていたように、米中貿易戦争を側面支援するため、金融緩和の方向に政策をシフトすることになったからだと考えます。
最近の米連邦市場公開委員会(FOMC)の議事録を読んでも、内部でどのような議論がされて金融政策の方向性が決まってきたのか、さっぱりわかりません。それは、金融政策に関する本当の議論がFOMCの外で話し合われているからでしょう。そしておそらく、FRBが金融緩和方向へ政策シフトする意向であることは、すでに内々に市場関係者に伝わっているのだと考えます。そうでなければ、この米国の長期金利の下落は説明がつかないのです。
問題は「ユーロ/ドル」にあり!
米国金利の低下は、外国為替市場に大きな影響を与えるだろう。ドル円相場には当然下落圧力がかかります。米中貿易戦争の結果としての景気後退も同時にもたらされれば、円はかなりの上昇(円高)を覚悟しなければならないでしょう。100円を割り込む円高も、当然視野に入れないといけません。
問題は、ユーロ/ドルです。ファンダメンタルズが必ずしも良好でないユーロは、緩やかなダウントレンドを形成してきました。しかし、米国金利が1%も下落した場合、欧米の金利差は縮小するため、どうしてもユーロドルには上昇圧力がかかるでしょう。米国の金融緩和に追いつくほど、欧州は金融緩和できないからです。
特に、今秋には新しい欧州中央銀行(ECB)総裁を迎えますが、ドラギ総裁ほど金融緩和論者でない人が総裁に就任する可能性が高いようです。そうなると、ユーロは上昇し、ドルインデックスも大きく下落しそうです。
米中の対立が、今後ますます金融市場を動乱させそうです。いよいよ、目が離せなくなってきました。(志摩力男)