サイバー戦争強国「7姉妹」に北朝鮮の名が! 核開発の動きは止まっているようだが......(気になるビジネス本)

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   米国のトランプ政権が打ち出した中国の通信機器大手、ファーウェイの排除は米中貿易摩擦と絡めて取り沙汰されることもあるが、これは2国間の通商問題ではなく、米国にとっては安全保障政策に関わる問題だ。

   米国はかねてよりファーウェイが、その製品である通信機器について疑わしい点を指摘しており、今回の措置では企業にも取引停止を求め、完全排除を目指している。

   テクノロジーの急速な進化であらゆるモノやコトがネットワーク化されたサイバー空間は近年、国際的な謀略が巡らされる場になっている。本書「世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器」(朝日新聞出版)によると、米諜報機関が議会に提出する年次報告書「世界脅威評価」では、サイバー攻撃は10年ほど前には、ひと言も触れられていなかったが、この数年の脅威リストはネットワークを悪用した都市機能のマヒ化の可能性などで占められている。ファーウェイについても米国内で「脅威」が高まり、排除の動きが強まったものだ。

「世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器」(デービッド・サンガー著、高取芳彦訳)朝日新聞出版
  • 2月の首脳会談はモノ別れに(米ホワイトハウスのホームページから)
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無知だったトランプ米大統領

   著者のデービッド・サンガーさんは、米ニューヨーク・タイムズ記者で国家安全保障を担当している。東京支局勤務の経験もある。2016年の大統領選期間中にトランプ氏にインタビューし、サンガーさんは当時の印象として「トランプは熾烈なサイバー紛争の動向をほとんど理解していなかった」と述べている。

   本書はサンガー記者が安全保障担当として大統領よりも長く、その動向を詳しく見てきた「サイバー兵器」の実態を明かしたもの。その兵器を操って繰り広げられるサイバー紛争の分野では、米国など7か国が有力で「セブン・シスターズ」と呼ばれており、ほかは、ロシア、中国、英国、イラン、イスラエル、北朝鮮。このトップグループの後を追うのはベトナム、メキシコといい「世界の覇権」を争うには意外な顔ぶれも並ぶ。

   意外という点では、北朝鮮が米国やロシア、中国とならんで「セブン・シスターズ」に列せられているのが、最も意外な印象を与えるのではなかろうか。

   閉鎖的な体質の北朝鮮政権は、当初はインターネットを排除していたが、利用しだいで敵に損害を与え利益をあげられることに気づきはじめたという。1990年代初めに、そうした構想をコンピューター専門家らが中国から持ち帰り、98年には現在のサイバー攻撃の主力である「一二一局」が創設され、所属員らは中国やロシアに派遣され訓練を積んだ。

   また、米ニューヨークにある国連本部で働く北朝鮮の当局者らが、ひそかにNY市内の大学のコンピュータープログラミング講座に通っていることを連邦捜査局(FBI)が察知し監視を行ったこともあったという。

自国には攻撃されるインフラなし

   金正恩労働党委員長が権力の座に就いたときには、一二一局は10年以上の経験を積みすっかり戦力に。金委員長は2012年までに、ハッカー部隊をインターネット・インフラがある国外に分散させサイバー戦を本格化させる。北朝鮮国内でもインターネットは使えるようだが、同国ドメインのサイトは数えるほどしかなく、攻撃を仕掛ける場所としてはふさわしくない。

   北朝鮮のハッカーたちは国外に出て、たとえばニュージーランドなどのネットワークに訪問先の国からアクセスし、そこから攻撃を仕掛けていた。滞在している国から攻撃する場合もあり、とくにインドは北朝鮮によるハッキングの5分の1近くの発信源になっているという。

   北朝鮮が大規模に攻撃を行った例は2014年、金委員長をモデルにしたコメディー映画を「耐え難い冒涜」として配給の映画会社に仕掛けたものがある。本書ではその模様も詳しく報告されているが、企業で起きる可能性があるサイバー有事に備える参考になるかもしれない。

   北朝鮮は核開発では動きを止めているようだが、サイバー攻撃は続けているらしい。それは、サイバー兵器で反撃されてもマヒするインフラがなく、攻撃の主であることがわからなければ、制裁の対象にもならないから。

   トランプ氏はどうやら、大統領就任後に「熾烈なサイバー紛争の動向」を理解し、北朝鮮との直接交渉や、ファーウェイの完全排除に踏み切ったようだ。

「世界の覇権が一気に変わる サイバー完全兵器」
デービッド・サンガー 著、高取芳彦訳
朝日新聞出版
税別2300円

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