会社の「ストレスチェック」 高ストレス者の6割がカウンセリング拒否 その切ない理由は?

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   「○○くん、ちゃんとストレスチェック受けなさいよ」と、上司から指示されたことがある人は多いだろう。従業員のメンタルヘルス向上のために義務付けられた制度だが、せっかく受診して「高ストレス」と評価され、専門医のカウンセリングを受けるよう推奨されても6割以上の人が拒否していることがニッセイ基礎研究所の調査でわかった。

   「アンタがストレスの元なんだよ!」と、当の上司に恨み節を言いたい従業員の切ない気持ちがわかりそうなレポートだが......。

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女性のほうが男性より「高ストレス」が多い

   このレポートは、2019年5月9日にニッセイ基礎研究所のウェブサイトに発表された「ストレスチェック後、高ストレス者が面談を受けない理由」。保険研究部准主任研究員の村松容子さんがまとめた。

   ストレスチェック(職業性ストレス簡易調査票)とは、従業員のメンタルヘルス(心の健康)のために、自分のストレスがどのような状態にあるかを調べる検査。労働安全衛生法の改正で、2015年12月から毎年1回、労働者が50人以上の職場に義務づけられている。

   国が推奨する調査票は、57項目の質問に分かれている。「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「私の部署と他の部署とではうまが合わない」「職場の方針に自分の意見を反映できる」といった職場環境に関するものから、「イライラしている」「ゆううつだ」「よく眠れない」といった心身の状態を聞くもの、さらに「あなたが困ったとき、次の人たちはどのくらい頼りになりますか? 上司 同僚 配偶者・家族・友人等」などと人間関係を問うものなどだ。

   こうした質問に、「そうだ」「まあそうだ」「やや違う」「違う」の4つのランクの中から、あてはまるものに回答し、ストレスの度合いや、ストレスの原因、状況を調べる。ほぼ5分で答えられる簡単な検査だ。そして、「高ストレス」であると評価された従業員は、必要があれば専門医やカウンセラーの面談指導を勧められる。

   同研究所が、ストレスチェックを受けた全国18~64歳の男女2572人を対象に実施した調査によると、受検者全体の10.0%が「高ストレスと評価され、専門家等との面談を勧められた」と答えた。また、12.1%が「高ストレスと評価されたが、面談等は勧められていない」、62.8%が「中または低ストレスと評価された」、15.1%が「覚えていない」と答えている。

   性別で比較すると、「高ストレス」と評価された人は、女性(23.2%)のほうが男性(21.5%)より高かった。男性より女性のほうにストレスが高い人が多いのはどういうことだろうか? 男性のほうが管理職になる人が多く、ストレスがたまりやすいように思えるが......。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に、村松さんはこう語った。

「確かに管理職は、仕事量や質の面でのストレスが高い傾向があります。しかし、ストレスは純粋な仕事面だけでなく、収入や希望する働き方かどうかという面からも影響も受けます。一般的に女性のほうが収入は少ないですが、収入が少ない人はストレスが高い傾向があります。また、その職場に定着することを希望していない、そもそも長期間働くつもりがない、転職の可能性を視野に入れている、働き方がよくわからないといった人もストレスが高い傾向があります。こういった点も女性のストレスが高いことに影響しているようです」

「カウンセリングを受けると職場にばれる」

   また、年齢別で比較すると、25~54歳(22.2%~25.0%)が、24歳以下や55歳以上より高いという結果が出た。これはやはり、働き盛りの中堅層にストレスが高いということだろうか。

「この年代は、仕事の量や負担以外に対人関係、職場環境、働きがいにストレスを感じているようです。既婚者は未婚者よりストレスを感じていない傾向がありました。しかし、子どもがいる人は、ややストレスが高い傾向があるので、『働き盛りで、家族など背負うものが大きい』ことはストレス増大の一つの要因となっているものと考えられます」
職場でのストレスチェックの結果(ニッセイ基礎研究所「2018年度 被用者の働き方と健康調査」より)
職場でのストレスチェックの結果(ニッセイ基礎研究所「2018年度 被用者の働き方と健康調査」より)

   今回の調査で浮かび上がった問題点は、「高ストレスと評価され、専門家等との面談を勧められた」人がその後、どういう行動をとったか。そこのところを聞いたところ、実際に「専門医との面談やカウンセリングを受けた」人が33.7%しかいなかったことだ。「何も行なわなかった」人がもっとも多く、全体の61.6%を占めた。また、「家族や友人に相談した」人が5.8%いた。つまり、放ったらかしの人が6割以上もいたわけだ。

   この「何も行なわなかった」人も、女性(64.8%)のほうが男性(59.3%)より多い。一般的に女性のほうが男性より健康意識は高いといわれ、心配になって専門医を受診しそうなものだから、理解に苦しむ調査結果だ。どういうわけだろうか。村松さんが説明する。

「高ストレスといっても、女性の方は、実際には比較的軽症の人が多いようです。一般的に女性の方が有訴率(不調を訴える割合)が高いからです。だから、『それほど深刻だとは思わなかった』などと、何も行動をとらない人が多くなったのでしょう。また、女性は健康のための行動は積極的ですが、健康診断などの受診率は男性に比べると低い傾向がありますから、受診はあまり好まないのかもしれません」

   こうした「何も行動をとらなかった」人たちに、その最大の理由を聞くと、「それほど深刻ではないと思った」(30.2%)、「時間がなかった」(23.9%)、「どう対処していいかわからなかった」(15.7%)という答えが多かった。しかし、村松さんが注目したのは、自由回答。その声を聞くと、「どうせ何も変わらない」「職場にばれてしまう」「ばれると不利益をこうむる」といったストレスチェックそのものに対する反発が多かったことだ。

「検査に正直に回答しない人もかなりいる?」

   村松さんはこう指摘する。

「ストレスチェックは、プライバシー保護のため、本人が面談を申し出ない限り、職場には個々の結果がわからない仕組みとなっており、面談を申し出た時点で、職場に『高ストレス者』であることが伝わってしまいます。強いストレスを抱えている人の一定数が、職場、同僚、上司に非常にネガティブな感情を持っています。そこで、ストレス状態を職場に伝えて状況を改善しようとするより、バレたらクビにされる、追い出される、仕事を割り当ててもらえなくなる、といった不安のほうが大きいと考えられます」

   もともと自分のストレスの原因が職場の上司・同僚なのだから、その上司・同僚がいる限り、専門医を受診しても何も事態は変わらない。いやむしろ、専門医を受診して上司にばれたら、どれほどひどい仕返しを受けるかわからない、という不安があるというわけだ。これはかなり深刻な問題かもしれない。

   それを裏付けるように、ストレスの因子別に「何も行なわなかった」人の割合を調べると、「職場の対人関係」「働きがい」「同僚からのサポート」などで悩んでいる人が多かった。

   いったい、こういう人たちにどう対応すればよいのだろうか――。

   村松さんは、

「ストレスチェックでは、高ストレスの評価が出ても専門医を受診しない人が多いという問題点以外に、じつは『調査に正直に答えない』という問題点もあるのではと考えています。何を回答してほしいかがわかる問題ばかりなので、自分が置かれている状態を無視して、中位のストレスを目指して回答をする従業員がおそらくいると思うのです。
大きな会社ならいいですが、従業員の少ない会社なら、性・年代などで誰の回答か相当絞り込める心配があります。そこで、『特定されて不利益をこうむりそうだから受けない』『受けても正直に答えない』という人が出てきます。ストレスの高い従業員の場合、職場に知らせずに仕事の負担を軽減することはできませんから、ストレスチェックは広く推奨すべきですが、こうした面談を受けることに抵抗を感じている人に対し、会社側は、面談でどのようなメリットがあるのか、従業員に丁寧に示していく必要があると思います」

   と、指摘する。

(福田和郎)

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